TOM FORD BEAUTY
BEAU DE JOUR(2020年)
調香師:アントワン・メゾンジュ
おすすめ度:★★★★☆
(公式HPより)
近年、フレグランス界を牽引しているのはトムフォードだと思う。
ロストチェリー、ビターピーチなど強烈なキャラクターの香り(名前も)をヒットさせている一方で、このボー デ ジュールのようなクラシカルなメンズフゼアの香りを現代的にアレンジした良作も手がけている。
過去、クラシカルなシトラスコロンをアレンジしたネロリ ポルトフィーノ(2011年)のような作品もヒットさせており、トムフォードが発表するフレグランスから目が離せず、新作が出ると必ずチェックしてしまう(なかなか買えないけれど)。
そんな天才トムフォードが創り出したラベンダーフゼアのテーマは、コントラストだと感じている。
トップはラベンダー。
ハーバル感の強いキリッとしたラベンダーと、柔らかくフワッとしたクラシカルなラベンダー。この2種類のラベンダーがはっきり区別できるほど、コントラストを効かせたオープニング。
ミドルはアロマティック・フゼア。
柔らかいラベンダーは定石通り、ゼラニウムやオークモスと重なることでクラシカルなアロマティックフゼアの香りにまとまっていく。一方で、ハーバルなラベンダーはローズマリーと重なることで、少し辛さのある硬いアロマティックな香りに仕上がっている。そこにミントやバジルの爽やかさを添えることで、若々しくフレッシュな印象を与えている。クラシカルなのに若々しい。その対比がベースに向かって近づいていく。
ベースはフゼア・ウッディ。
クラシカルなフゼアは、クマリンの甘さを加えることで、ソープや洗濯糊のような清潔な印象から、パチョリの深みのあるシプレウッディな香りに包まれていく。一方で、フレッシュなアロマティックは、ミントの苦みやバジルの焦げ感がドライアンバーの男らしいキリッとした雰囲気を持たせつつも、パチョリに融合されていく。最後はクラシカルなフゼア優勢、そこにパチョリのラグジュアリー感を与えながらドライダウン。
ミドルまでは2時間程度、全体的には4時間程度持続する。
まるでテキストのようなクラシカルなフゼアを骨格に、その対比としてハーバルなラベンダーとローズマリー、爽やかなミントやバジルを置くことで若々しさを演出し、さらにパチョリでトムフォードらしいラグジュアリー感も忘れていない、オールマイティーなフレグランスだと思う。
ベースがクラシカルなフゼアのカチッとした香りのため、30代以降のビジネスシーン、特にスーツスタイルに似合う香りだと思う。
こういうクラシカルな香りを経験することで、フゼアはもちろん、シプレ、ウッディ、さらにはグルマンなど、香りの許容範囲がどんどん広がっていくのではないだろうか。
この奇をてらっていない、クラシカルな面影を残した現代版メンズフゼアの良が、なぜ日本未発売なのだろうか。ファン層を広げるのに、最適な香りだと思うのだが。