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シャネル:N°5 ロー

CHANEL

N°5 L'EAU

調香師:オリビエ・ポルジュ(2016年)

おすすめ度:★★★★☆

 

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(公式HPより)

 

フレグランス界の女王に君臨するシャネルN°5。

2016年、N°5のロータイプが、当時、4代目調香師に就任したばかりのオリヴィエ・ポルジュの手によって創られた時、冷めた視線で眺めた記憶がある。

せっかく新しい調香師に変わったのに、なぜ今、N°5をアレンジする必要があるのか。それよりも、今までにないまったく新しいシャネルの香りを創作すれば良いのにと感じていた。

でも実際にその香りに触れてみると、重厚なアルデヒドフローラルと、シトラスの相反する香りがきれいにまとめていて、N°5の華やかさも残しつつも、フレッシュ感もある、とても良い香りだと思った。

 

あれから数年経ち、N°5ローに対する想いはさらに強くなった。一言でいうと、最高レベルのフローラルソープの香りだと今は思う。

 

トップはシトラス・アルデヒド。

スプレーすると、アルデヒドの粉っぽさと、爽快なレモンやジューシーなマンダリンを中心としたシトラスミックス。さらにネロリの明るさも加わり、シトラスの爽やかさに、白イメージのパウダリー感を合わせた、清潔感溢れるトップ。湿気のない春、温かな太陽に陽射しの下で、真っ白いシャツを干しているようなイメージ。

 

ミドルはフローラル・シトラス。

レモンを中心としたすっきりしたシトラスをしっかり残しながら、イランイランの眩さ、ネロリの明るさが香る。このイランの香り方がとてもN°5ぽく、シトラスと重なることで、フレッシュで若々しいN°5のイメージを創り出している。そこからローズやジャスミンのフローラルの感がさらに強くなっていくが、その土台が白っぽいムスクなので、フローラルが妖艶にならず、白く抜けていくようなイメージ。これであれば、ゴージャスで敷居が高いN°5の濃厚なフローラルでも、付けてみたいと感じる。

 

ベースはムスキー・ウッディ。

シトラスやネロリのフレッシュな余韻を残したまま、イランイランやローズやジャスミンに、オリスのしっとりしたパウダリー感を合わせるのことで、N°5らしい香りに。それら全体をクリーミーなムスクやウッディで包み込んでいくようにドライダウンしていく。ほんのり香るバニラも、フローラルのフェミニンな印象を添えている。

 

持続時間は4時間程度で、春から夏を中心に、日中に似合う香り。

 

このN°5ローは使えば使うほど、好きになっていく香りだと感じる。

N°5のDNAとも言える、強いアルデヒド、イランイランを中心にした女性らしいフローラルミックス、そして柔らかなパウダリーをしっかり残し、フレッシュでみずみずしいシトラスや清潔なムスクで表情を変えている。まるで派手な舞台メイクから、ナチュラルメイクに変えたみたいに。

 

ブランドの香りの全責任を担う専属調香師は、当然、新しいファンを獲得しなければならない。そのためには、時代に合わせた新しい香りを常に創り出していけば良いのだが、シャネルの場合はそんな単純な話ではないのではと思う。

というのは、女王N°5を永遠の香りとしなければならない。N°5は昔の香りとか、古臭い香りにさせられない責任もあるのではと感じる。

だからこそ、N°5ローは、しっかりN°5のDNAを残しながら、若い世代でも違和感のないような若々しさや、真っ白な清潔感のある香りにアレンジしたのではと思う。

そしてこのローがシャネルの入り口となることで、きっといつかはオープルミエールや、さらにはN°5も好きになってほしいという願いを込めて。

 

その結果、N°5ローという、よくある石鹸調フレグランスと別次元のフローラルソープの傑作が誕生した。 

それはそうだ、なぜならそのDNAは今年100周年を迎えたシャネル5番の香りなのだから。

フローラルなソープの香りが好きならば、一番におすすめしたい香り。それはシャネルN°5ロー。