CHANEL
N°5 PARFUM(1921年)
調香師:エルネスト・ボー
おすすめ度:★★★★★
画像:公式HPより
今年、誕生から100周年を迎えたフレグランスの女王、シャネルN°5。
多くの人たちに語り尽くされたこのN°5のレビューをあえて書くのは、私自身、この香りと、この香りに対するココ・シャネルの精神、開発のストーリー、そしてデザイン、それらすべてにリスペクトしているから。
N°5が女王の名に相応しいのは、性別や人種を問わずに魅了し続けるその香りの素晴らしさにとどまらず、いまだに売れ続けているという事実にある。
コアなファンに愛されているのではなく、文字どおり、時代が変わり、トレンドが変わっても、100年も昔に創られた香りが現在でも売れ筋の常に上位にいる。
こんなフレグランスは、N°5の他にひとつもない。
100年前といえば、たとえば私の曾祖母が使っていたとしてもおかしくないレベルで、とてつもない存在だと思う。
1921年、マドモアゼル シャネルの「女性の香りのする、女性のための香り」を、という願いに、初代シャネル専属調香師 エルネスト ボーが応えた、当時の常識を超える抽象的な調香。その試作の中から選んだ5つ目のボトルを、彼女は「 N°5」と名付けました。
直線的なラインのボトルに白いラベル、宝石のようなカッティングを施したストッパー。一切の無駄をそぎ落としシンプルを極めたボトルに包まれた、複雑に構成された類い稀なラグジュアリーな香り。こうして、 N°5という伝説が誕生しました。(公式HPより)
改めて、N°5の香りをかいでみると、
トップはアルデヒド・シトラス。
すっきりしたレモンやベルガモットから始まるが、そのシトラスに引っ張られ、そして覆い隠すほど強いアルデヒドの石けん調のパウダリーな香り。さらにそのアルデヒドに引っ張れるように明るいネロリや艶っぽいイランイランの香り立つ。
正直、昔は何てケバケバしいトップなのかと思っていた。でも久しぶりにそのトップに触れてみると、案外そうでもない。むせるようなアルデヒドを軸に、シトラスがみずみずしさを与え、ネロリやイランイランがフローラルの華を添え、石けん調なのにまったくチープに見えない。むしろこのアルデヒドが、シトラスやフローラルに強烈な個性を与えているように感じる。
ミドルはフローラル・パウダリー。
トップのアルデヒド・フローラルに、重厚なアイリスが加わることで、トップとは違う、いわゆるコスメっぽいパウダリーな香りになっていく。さらに非常に官能的なジャスミン、さらにはとろけるようなローズの甘さがどんどん濃く、そして複雑に絡まっていく。
とにかくゴージャスな女性的な香りで、さすがにこのミドルは男性では使いこなすのは難しいと感じる。
ベースはアニマリック・ウッディ。
ミドルのパウダリーなフローラルが、サンダルウッドなどのウッディの深みや、バニラやアンバーの官能的な甘さが加わることで、より熟成されていくようなイメージ。さらにシベットの動物的な香りが、体温のような温もりを与えている。当然、ムエットよりも肌に乗せた方が、柔らかさ、深み、甘さが増す。
このベースは、まるで母性のような抱擁力がある。忘れた頃、このベースに会いたい一心でムエットにスプレーしてしまうほど、大好きな香り。記憶に残る香りだと思う。
N°5の香りについて、ココ・シャネルのエルネスト・ボーへのオーダー内容がそのすべてを物語っていると感じる。
花ベースの香水は女性を神秘的に見せないから嫌。もっと複雑で長続きする、とにかく女性らしい香水を作って。すごく高価になってもいい(山口路子著「ココ・シャネルの言葉」より)
強いフローラルでありながら、トップ・ミドル・ベースの変化が大きく非常に複雑で、とにかく女性的なのに、引き込まれてしまうような神秘的な香り。
そして、何といっても一度かいだら忘れることができない強烈なキャラクター。時代やトレンドを超越した普遍のキャラクターを持った香りだと感じる。
このN°5の普遍性は香りに限った話ではない。
プロモーション、そしてボトルデザインも素晴らしい。
今年の4〜6月に開催された「MIROIRS-Manga meets CHANEL /Collaboration with 白井カイウ&出水ぽすか」に足を運んだ。
(「MIROIRS-Manga meets CHANEL /Collaboration with 白井海岸カイウ&出水ぽすか」で撮影)
現代のアーティストとコラボレーションすることで、N°5の鮮度管理を怠ることなく、さらに来場者にはN°5オードゥパルファムのサンプルを渡すことで、常に新しいファンの獲得を行なっている。シャネルらしいプロモーションだと感じる。
そしてデザイン。驚いたことに100年前とほとんど変わっていない。
(「MIROIRS-Manga meets CHANEL /Collaboration with 白井海岸カイウ&出水ぽすか」で撮影)
時代を反映させないシンプルなデザインを採用したココ・シャネルの慧眼恐るべしではあるが、あえてそのデザインを変えない。その変えない努力こそが、ブランドの普遍性を作り上げているのではと感じる。
一方で、香りは変えないけど、パッケージは時代に合わせてどんどん刷新していくブランドが多い。
どちらが優れているかはわからない。だた個人的には、シャネルのN°5に対する姿勢にリスペクトしたい。