HERMES
UN JARDIN SUR LE NIL(2005年)
調香師:ジャン=クロード・エレナ
おすすめ度:★★★☆☆
画像出典:公式HP
整理してしまい、今はもう手元にないけれど、ナイルの庭は、昔、とにかくよく使っていた思い出の香り。
エルメスの「庭シリーズ」第2弾のナイルの庭は、大ヒットとなり、今でも人気が衰えないフレグランスだ。
「川の流れと共に」をテーマとして、ナイルの河口付近に広がる庭園をイメージして創られた、汎用性の高い爽やかなフルーティグリーンの香り。
調香師は、エルメスのハウスパフューマーのジャン=クロード・エレナ。
ナイルの庭について、自書にて次のように語られている。
「ナイルの庭」のテーマを選んだのは、アスワンのナイル川のなかの庭を散歩しているときだった。マンゴーの並木道、五月。マンゴーの木の枝は青い果実の重みでたわみ、果実が手に届くほど低く垂れていた。ひとつ、実をもいだ。花床から透明な乳液があふれ出た。鼻に持っていった。匂いに魅了された。樹脂、オレンジの皮、グレープフルーツ、にんじん、オポポナックス、社松、酸味のある匂い、甘い匂い、強い匂い、優しい匂いなど、香りのイメージがあふれ出てきた。抗わず、感覚を愛撫されるままに、匂いを自分のものにする。この喜びと感覚を、私と一緒にいる人びとと分かち合いたい。こうしてテーマが決まった。(中略)青いマンゴーが匂いが記号となり、ナイルの島の庭の象徴になった。
(「ジャン=クロード・エレナ著、芳野まい訳「香水-かおりの秘密と調香師の技」白水社より)
本人が述べているとおり、このフレグランスのキーは、グリーンマンゴーの香りだと思う。
このグリーンマンゴーを、よくある重く甘いのフルーティではなく、フレッシュなシトラスやグリーンを立たせることで、ニンジンやトマトを思わせる野菜的な甘さを引き出している。その結果、ありがちなトルピカルなマンゴーではなく、アフリカのナイル河口の庭に実ったマンゴーのイメージをうまく表現できていると感じる。
トップはシトラス・グリーン。
フレッシュなグレープフルーツと、リーフグリーンの青くさい香り。グリーンとは別にニンジンのような甘みが加わることで、確かにマンゴーのようにも感じ取れる。
ミドルはフルーティ・フローラル。
ニンジンの甘みよりも酸味が増して、トマトとマンゴーを合わせたような香りがしばらく続く。その背後から可愛らしいピオニーのフローラル感が香り全体に明るさを、一方でロータスの乾いたがグリーンに少しずつ苦みを与えていく。
ベースはウッディ・ムスキー。
フルーティグリーンの残香に、アイリスのパウダリー感が加わり、フルーティな抹茶のような香りに感じる。ロータスを加えた少しクセのあるウッディとムスクから、最後はややメタリックなヒヤシンスグリーンと、アイリスのパウダリーな香りに。
グリーン感の強い硬いパウダリーノートが少し鼻に付くが、しばらくすると、グリーン、パウダリー、ムスクのバランスが整ってきて、柔らかいお茶石けんのような清潔な香りとしてまとまり、そのままドライダウンしていく。
トップからミドルの、とても爽やかシトラス・グリーン・フルーティの香りに対して、ベースの石けん調の香りは、ナイルの庭のイメージと少し離れているのではと感じる。スプレーすると、1時間くらいでベースの香りになり、このベースが3~4時間程度持続する。
トップミドルのフルーティグリーンだけでなく、ベースの石けん調が好きであれば、嗜好も高く、清潔感な香りなので、春から夏にかけて出番の多い香りになると思う。