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ル ラボ:アルデヒド 44

LE LABO

ALDEHYDE 44(2006年)

調香師:ヤン・ヴァスニエ

おすすめ度:★★★★☆

 

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画像出典:公式HP

 

ダラスのシティエクスクルーシブのアルデヒド44は、チュベローズ40と同じく、シティ エクスクルーシブ コレクションの最初の作品だ。

 

トップはアルデヒド・フローラル。

スプレーすると、清潔さをそのまま香りにしたような、アルデヒドの透き通ったソープ調と、こちらも透明感溢れるネロリの香り。いわゆるソープ調のよくある粉っぽさは一切なく、美しさが際立つアルデヒドフローラルの香り。

 

ミドルはアルデヒド・フローラル。

上の方は太陽な光のようなアルデヒドの白さを立たせながら、奥からはこちらも白さが負けないようなホワイトフローラルがどんどん濃くなっていく。

まず、ナルシスのこもったような深みのある花の香り。真白い生地の下に、少し暗めの生地を置くことで、上の白さが引き立ち、白い生地感がよりはっきりしてくるようなイメージ。白い生地感とはアルデヒドのことで、アルデヒドのパウダリー感が増していく。

次に、チュベローズの凛とした花の香りと酸味が香ってくる。ナルシスを突き破るように香り立つチュベローズが、上の方の香っていたアルデヒドと重なり、鼻先はフローラルの甘さや酸味を帯びたソープ調の香りの変化していく。

最後に、酸味やインドールのアニマリック感が強い、とても官能的なジャスミンが見えてくる。その奥からは香ってくるウッディアンバーと重なることで、黒いキャンパスを背景に咲く真白ジャスミンの妖しさ。

腕に乗せてみると、腕全体はフローラルソープの香り、でも付けた場所に鼻を近づけると、とても官能的な温もりのある香り。逆にこの妖しい暗さが、このフレグランスの個性を創り出しているようにも思える。

 

ベースはムスキー・ウッディ。

ジャスミンとサンダルウッドにバニラの白い甘さが加わることで、官能的な香りに丸みが帯びてくる。この瞬間を狙っていたかのように、ムスクが香り全体を白く包み込んでいく。その結果、さっきまで妖しげな光を放っていたジャスミンやナルシスをミックスさせた、深みのあるフローラルソープの香りで一つにまとまり、そのままドライダウンしていく。

 

じっくりと観察してみると、香りの変化はあるものの、全体を見れば、アルデヒドフローラルのシングルノートに近い香りで、季節を問わずに使える香りだと思う。

夏場に使ったところ、最初は軽やかなフローラルソープから、徐々にフローラルやウッディバニラの深みを増した香りが、6時間近く持続した。

 

真白いだけの香りは薄っぺらい。闇があるから輝きが際立つように、黒いキャンパスを白く塗ることで、白という色が完成する。そんなイメージの香り。

 

そして、このアルデヒド44は、21世紀のシャネルN°5と言っても差し支えないのではと感じている。N°5の特徴的なアルデヒドやフローラルを踏襲しながら、鮮やかなローズやイランイラン、さらには暖かみのあるアニマリックを抜くことで、アルデヒドの持つ白さを引き出したような香り。個人的にはルラボ版N°5の香りだと思えてしまう。

では、なぜルラボは、N°5のオマージュのような香りをダラスの香りとしたのだろうか。

 

調べてみると、1954年にクチュールメゾンを再開したココ・シャネルは、1957年にダラスを訪れ、「ファッション界のオスカー」と称されるニーマンマーカス賞を受賞している(シャネルのゼスクスルジフにこの賞を受賞した年から命名した「1957」がある)。

もしかするとアルデヒド44は、N°5ではなく、ココ・シャネルへのオマージュかもしれない。

「おかえりなさい!ココ・シャネル!」と。