フレグランスアッセンブル

フレグランスの香りの変化を解析するサイト

シャネル:ボーイ

CHANEL

LES EXCLUSIFS DE CHANEL BOY(2016年)

調香師:オリビエ・ポルジュ

おすすめ度:★★★★☆

 

f:id:captain_dora:20210907141325j:plain
f:id:captain_dora:20210907141334j:plain

画像出典:公式HP

 

シャネルの最上級ラインのレ ゼクスクルジフ ドゥ シャネル。稀少なエッセンスと、精緻で巧妙な調香が組み合わせられたシャネルのクリエイションの結晶。

 

ボーイは気品のあるフゼア・シプレ・ウッディの香り。

最初の印象は、他のゼクスクルジフラインと並べてしまうと地味に感じた。どこか懐かしさのあるクラシカルなシプレのようで、それなのに王道フゼアのようなキリッとした印象もある。

それでも、それぞれ片方のみだとクラシカルで目新しさもないのに、合わせてみると一気にモダンで気品のある雰囲気に変わっていく。そして何よりも使いやすく、使い続けていくうちに手放せなくなってしまうような香り。

 

トップはアロマティック・シトラス。

スプレーした瞬間、グレープフルーツやレモンの爽やかなシトラスが香るも、フワッとアロマティックなラベンダーが包み込んでいく。シトラス部分、特にグレープフルーツがキリッとしているため、メンズ寄りなオープニング。

 

ミドルはフゼア・シプレ。

キリッとしたラベンダーにゼラニウムが加わることで、クラシカルな雰囲気のアロマティックフゼアの香りに。鼻先で香るシトラスが若々しさを添えるものの王道フゼアの香り。

ところが、アロマティックフゼアを香らせながら、奥の方の様相が変わってくる。どんどんやわらかくなっていく。ローズ、オレンジフラワー、ヘリオトロープの流れでフローラル感が立ち、あか抜けていく。

そこからさらにあか抜けると思いきや、オークモスを効かせたシプレ調になるため、クラシカルな締まった印象を残している。

この男性らしいアロマティックフゼアから、女性らしいフローラルシプレへの移ろい方がとても洗練されていて、素晴らしい。

 

ベースはウッディ・ムスキー。

ヘリオトロープを中心にした、華やかなフローラルシプレを、まろやかなサンダルウッドが包み込む。そこにトンカビーンやバニラが甘さを添えるため、ここからオリエンタルに進むと思わせつつ、ムスクやアンブロクサンが白くまとめていく。懐かしさのあるシプレの余韻やオリエンタルと、今っぽいホワイトムスクが調和したまま、ドライダウンしていく。

 

最初の1時間がメンズ寄り、そこから1~2時間は少しずつ女性らしさを醸し出しながら、最後は上品なウッディムスクが6時間くらい持続する。

 

昼夜問わず、夏場以外は使うことができる。特に秋はベースのフローラルシプレの優しさ、サンダルウッドの温かみやバルサミックな甘さが適度に香り、このボーイに包まれるだけで、どこか洗練された印象を与えてくれる。

 

確かに明確なキャラクターが欠けた、地味な香りだと思う。どこかでかいだような既視感もある。でも、こういう香りの方が圧倒的に出番が多い。クラシカルなメンズらしさを漂わせながら、女性のようななめらかさな持ったような香りで、肩ひじを張っていない奥行きを感じる。歳を重ねるごとにこのボーイの魅力が分かっていく、そんな香り。

 

そして、香りに対して、ストーリーはとてもロマンティックだ。

ボーイは、マドモアゼル・シャネルの最愛の恋人アーサー・カペルをイメージした香りで、男性らしさと女性らしさが肌の上で出逢うフレグランス。とても素敵なストーリーだと思う。

実際、シャネルとカペルの出会い、関係性、別離。これは本当に事実なのかと疑ってしまうほど、ドラマティックだ。

「彼は私の人生に舞い降りた最高の幸運だった。彼を亡くしたときに私は全てを失った。」(山口路子「ココ・シャネルの言葉より」)

シャネル自身が作ったあの有名なロゴマークは、アーサー・カペルの「C」と、ガブリエル・シャネルの「C」を背中合わせに組み合わせた意味があると言われている。
ボーイは、男性らしさと女性らしさが肌の上で出逢う、洗練が際立つフレグランス。
まるでシャネルのロゴマークのように。