GUERLAIN
BOIS D'ARMENIE(2006年)
調香師:アニック・メナード
おすすめ度:★★★★☆


画像:公式HPより
ラール エ ラ マティエールのなかでも、このボワダルメニはもっともマニアックで玄人好みの香りだと感じている。
華やかな香りというよりも唯我独尊の世界観。さらに使うシチュエーションもなかなか思い浮かばない。私自身、このボワダルメニを使うのは年間で一桁台という少なさだ。それでも、ボワダルメニの神秘性や深み、残香の素晴らしさは折り紙つきで、年に数回とはいえ、その香りに吸い寄せられるように纏いたくなる香り。
ボワダルメニは「アルメニアの木」の意で、アニック・メナードは、ルラボのガイアック10も調香している。どちらも肌に溶け込むようなウッディの深みを堪能できる香りで、とても気に入っている。
ゲランでは2005年頃から、ティエリー・ワッサーが5代目となる2008年まで、外部の専属調香師の作品が多く、このボワダルメニをはじめ良い意味でゲランらしくない名香が揃っている。
トップはスパイシー・ウッディ。
スプレーすると、ツーンとピンクペッパーの強いスパイシー感が鼻を抜ける。そこからアーシーなアイリスの深みと、その奥からインセンスの煙のような香ばしさ。このウッディが、ピンクペッパーやアイリスのパウダリー感をより増しているようなオープニング。
ミドルはウッディ・バルサミック。
ピンクペッパーとは別に、かなり辛めのコリアンダーが鼻先を刺激しながら、奥からは乾いたウッディの深み、さらにその奥からはウッディと交わりあったビターなベンゾインが香る。ようやくこのあたりで、このドライなウッディがガイアックウッドだと分かる。ガイアックがベンゾインの甘さをよりビターに、より深く仕上げているようにも感じる。
ベースはバルサミック・ウッディ。
ベンゾインとインセンスの残香の調和した、スモーキーな甘さと酸味を、ドライなガイアックウッドと湿ったパチョリが香り全体に奥行きを与える。いわゆるグルマン系の甘さとは異質な、樹脂が焦げたような甘さと木々の深みこそが、たまらなく魅力的で、鼻や肌に自然に馴染んでいくようで、包まれていて安心する。
さらにアンバーグリスにも似たアニマリックなムスクで、ビターな甘さにやわらかさを与えながら、ベンゾインのバルサミックな淡い甘さを感じたままドライダウンしていく。
ムエットだとベンゾインの酸味がやや強いが、肌に乗せるとビターな甘さの方がキレイに香り立つ。
スパイシーを効かせたフレッシュビターなウッディが2時間くらい、そこからベンゾインの甘さを迎え入れながら深みを増し、最終的には8時間近く持続する。
秋から冬の空気の張り詰めた寒い日、ボワダルメニの深い温もりと柔らかな甘さは、寒さに緊張した肌に、そして気持ちをふわっとほぐしてくれる。
ベンゾインの樹脂系のまろやかな甘さと、お香のような焦がした木々の香りが合わさることで、まるで肌の上でベンゾインのお香を焚いたような安らぎに浸れる。
特に肌に乗せた時、肌への溶け込み感は饒舌に尽くしがたく、ケミカル特有の尖った香りが一切存在しない香ばしい甘さが、時間が経つほど肌と一体になっていく。それだけに使うタイミングが難しい。つけてから3時間くらい経った香りが寝香水の最適ではと感じるため、どうしても使用機会が少なくなってしまう香り。