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ルイ・ヴィトン:オラージュ

LOUIS VUITTON

ORAGE(2018年)

調香師:ジャック・キャヴァリエ

おすすめ度:★★★★☆

 

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画像出典:公式HP

 

オラージュは2018年、一挙に5作発売されたメンズフレグランスコレクションの3番目の作品にあたる。

オラージュとは「嵐」の意で、そのコンセプトは、嵐と大空の繋がりが象徴する人と大地の繋がりや、荒々しい自然との関係性から着想を得た、驚きに満ちたウッディなフレグランスとしている。

 

今思い返すと、正直、発売と同時に購入したものの、このフレグランスの素晴らしさが分かってきたのは、かなり時間が経ってからで、最初はとても地味な香りだと感じていた。

 

トップはシトラス。

スプレーすると、搾りたての果皮のようなベルガモットのみずみずしいグリーンを、アイリスがパウダリーに、そしてアーシーに彩りを与えたようなオープニング。

 

ミドルはアーシー。

ベルガモットのみずみすしいシトラス感を、やわらかいアイリスが包み込んでいく。アクセントとして香るグレープフルーツの苦みやブラックペッパーが、男らしさを添えている。

そして軸足がアイリスに移っていくと、みずみずしいフローラル感と、ベチバーを合わせながら、懐の深い、とても男性的なアイリスを楽しむことができる。自然味、やわらかさ、力強さ、そして深みなど、アイリスが持つ様々な表情を堪能できるような香り。

 

ベースはウッディ。

やがてパチョリの姿がはっきりすることで、力強いアーシー感が増していく。ベチバーのアロマティック感、アイリスのなめらかさをまとったこのパチョリの香り。ゴリッとした(トムフォードのような)ラグジュアリーなパチョリではなく、アーシーな透明感が備わったパチョリの表情が特に素晴らしく、メンズフレグランスのなかでは、ベストオブパチョリの香りではないかと感じている。

ここから香りの流れは大きく変わることなく、ムスクを加えながらドライダウンしていく。

 

香りの流れはとてもシンプルで、ベルガモット→アイリス→ベチバー→パチョリの流れで、フレッシュなアイリスが2時間くらい、そこからアイリスやベチバーがパチョリが溶け込むように、最終的には8時間以上持続する。

 

あまり季節感のない香りではあるものの、時に春秋に似合う香りだと思う。春であればエレガントに、秋であればスタイリッシュに演出してくれる。

 

ルイ・ヴィトンらしい、自慢の素材感をそのまま感じられるような香り。ベルガモット、アイリス、ベチバー、パチョリのそれぞれの香りのピークの時間差を利用することで、時間や体温とともに、香りの重なり合わせや、香りの変化を楽しめる作品。

神秘性と畏怖の共存。人と大地の繋がった結果、心の深淵で聖なる歌が響き渡る。

 

最初、オラージュを買った理由は不純で、他の香りと重ね合わせることが目的だった。なぜなら、どんなレディースの香りも、このオラージュと重ねるとメンズらしい深みが備わってくれる。当時、お気に入りだったルジュールスレーヴとの組み合わせが最高で、シトラスとカシスグリーンの存在感がさらに増し、とてもアロマティックで上質なメンズフレグランスに様変わりした。

オラージュ単体では、シトラスグリーンやアーシーなウッディがそれぞれ調和した、清潔感のあるウッディな香りではあるけれど、迫ってくるようなキャラクターに欠けると感じていた。

 

しかし、そのうち重ね合わせも飽きてしまい、オラージュも使わなくなったある日、忘れていたオラージュを何気なくまとってみると評価が一変した。ようやく、これは素晴らしいアイリスパチョリの香りだと気づいた。

 

フレグランスはたった1回付けた評価を鵜呑みしてはいけない。季節や体調で香り方も変わる、そもそも自分の好みも変わる、さらに様々な香りとの出会いで自分の鼻は進化する。そして最終的にはシンプルな香りであればあるほど、飽きることなく、長きにわたってパートナーでいてくれる。

オラージュという嵐は、今までの先入観を吹き飛ばし、私と香りとの新たな繋がりを教えてくれたと感じている。