GUERLAIN
BOISE TORRIDE(2009年) ※廃番
調香師:クリスティーヌ・ナジェル
おすすめ度:★★★★☆
現代女性をイメージして創作されたエリクシールシャルネルコレクション。ボワゼトリド(「情熱の木」の意)は、エリクシールシャルネル4番目の香り。男性的なニュアンスを多く含んだ、異色のフェミニングルマンウッディフレグランスだと思う。
ところが発売後、早々に廃番になってしまい、今ではかなり入手が難しい作品になっている。もしかすると、発売当時では、ここまで男性が主張する香りは、コレクションのイメージからはみ出して映ったのかもしれない。逆に、それが今ではオリジリティ溢れるキャラクターとして受け入れられるのではとも感じる。
トップはフルーティ・シトラス。
ジューシーなタンジェリンとみずみずしいベルガモットに、そしてレッドベリーの香り。このレッドベリーがとても特徴的で、真っ赤なイメージ、でも表面は硬く、どこかキリッとした冷たさがあり、そして甘くない。そんなレッドベリーがシトラスを赤く、硬くコーティングすることで、シトラスのみずみずしい甘さを引き立たせたようなオープニング。
ミドルはグルマン・フローラル。
トップのキリッとしたジューシーなシトラスを感んじながら、マシュマロの白い甘さがフワッと広がってくる。スタイリッシュな赤から、白いマシュマロが広がっていく感じがとてもセクシーに映る。さらにオレンジフラワーやジャスミンの官能的なフローラルの甘さが、さらにマシュマロの甘さを深くしていくと思いきや、サイプレスにも似たバージニアセダーウッドのウッディが硬さが、マシュマロの甘さをキュッと引き締めているような香り立ちに。
ベースはウッディ・グルマン。
パチョリがマシュマロの甘さを補強すると同時に、セダーのウッディ感もより厚くさせていく。女性らしい甘さと、男性的なウッディの対極。それぞれにアプローチしていく、バイセクシュアルなパチョリ。
パチョリの活躍?で、女性と男性が少しずつ距離を縮めていくものの、この男女は最後まで交わることなく、淡いムスクを加えながらドライダウンしていく。
硬いレッドベリーと軽やかマシュマロの対比が2時間くらい、そこからウッディとマシュマロフローラルの対比が移行し、最終的には4~5時間持続する。
グルマンウッディの香り。シトラスを含んだグルマンは軽やかで明るく、ウッディが甘さを助長していかないため、真夏以外は似合うのでは。
このボワゼトリドは非常にユニークな香りだと思う。バニラではなく、あえてマシュマロを置いたことで、グルマンとウッディの対比が鮮明になる。その対比ははっきりしていて、最後の最後までその対比が続いていく。
もし、マシュマロではなくバニラをメインにしてしまえば、バニラとパチョリが融合した、濃厚なグルマンの香りなってしまい、そういう香りは多くある。
でも、マシュマロを爽やかなシトラスで軽くして、甘いホワイトフローラルで官能的に仕上げる一方で、トップからレッドベリーで硬い印象付けを行い、その後に続くウッディの硬さを見えやすくさせている。まさに情熱と木々の深み。ここまで女性の華やかさと、強さを表現した香りはなかなかなく、稀有なグルマンウッディの香りだと思う。