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メゾン フランシス クルジャン:ジェントル フルイディティ シルバー

MAISON FRANCIS KRUKDJIAN

Gentle fluidity SILVER(2019年)

調香師:フランシス・クルジャン

おすすめ度:★★★☆☆

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画像:公式HPより

 

2021年、ディオールのパフューム クリエイション ディレクターに就任したフランシス・クルジャン。彼が調香師25年の節目に発表した作品がジェントルフルイディティで、シルバーとゴールドが同時発売された。

このジェントルフルイディティのゴールドとシルバーは、同じ49種類の香料成分を、そのバランスを変えることで、まったく違う香りを創り出していて、調香のルールや固定概念を超えて、新しい感動をもたらすとしている。ひとつの名前を共有しながら異なる個性を放つゴールドとシルバーは、ジェンダーフリーやボーダレスな世界をさりげなく語り、自由な個性の表現を称えるとのこと。実際に比較してみると、確かに両者は共通の要素が多く感じられるものの、香りの全体な印象は全く異なる。

 

ではシルバーはどういう香りかというと、

トップはアロマティック・スパイシー。

スプレーすると、爽快でアロマティック感の強いジュニパーベリーと、冷たさとピリッとした硬さが感じられるナツメグの香り。特に、このジュニパーベリーエッセンスの香りは相当好みの香りで、確かにジンフラッペという言葉がぴったりだ。

でも、ナツメグの硬く鋭いスパイシー感が、良くいえばセクシー、悪くいえばストレートすぎて、かなりの男前でないと浮いてしまうようにも思える。好青年を演じるジュニパーと、下心を隠しきれず表情に出てしまっているナツメグ。それでも、背後からほんのりと香るバニラの甘さが心地よい。

 

ミドルはスパイシー・アロマティック。

徐々にアロマティックよりもスパイシーが前に出てくるイメージ。ナツメグからコリアンダーに移行することで、スパイシー特有の鋭さはあるものの、アンバーやウッディに似た深みがあり、主線となるアロマティック感と上手く調和した、とてもハンサムな香り。

 

ベースはアロマティック・ウッディ。

アロマティックにムスク、スパイシーにウッディアンバーがそれぞれ重なり、バニラがうっすらと色気を添える。丸み、硬さ、甘さのバランスが整った、このベースの香りは、トップの香りと比較して、とてもクールで、洗練された男の色気を感じる。

 

スパイシーが立ったアロマティックが2時間弱で、そこから柔らかさのあるアロマティックウッディの香りが6時間くらい持続する。かなりしっかりした香りだ。

 

下心を隠さないトップ(10分ほど)さえ乗り切れば、ベースに進むにつれて、透明感溢れるアロマティック、スマートなウッディアンバー、そして色気のあるバニラの三拍子揃った、かなり上品なアロマティックウッディの香りだと感じる。

このフレグランスの主役はジュニパーベリーで、弾けるような爽やかさと、滴るようなみずみずしさ溢れるアロマティックな香りは、いわゆるマリン系のアロマティックとは異質の品がある。こういうスマートで上品なアロマティックであれば、使用頻度も上がってくると感じる。

そして、個人的には35mlサイズがとても良い。正直、100mlは一生分、50mlでも使い切れないボトルが増えている。まさにジャストサイズで、価格以上に購入までのハードルを下げてくれる。

 

元は同じ香料でありながら、自由な精神とクリエイティビティがあれば、表現はこんなにも変わる。ジェントルフルイディティは、現代のジェンダーに対するフランシス・クルジャンの考えを体現した香りだと思いつつも、そういうコンセプトは作り手のエゴじゃない?と思ってしまう。個人的に、彼は調香師としては抜群、でもゼロから新たなテーマを創り出すことは長けていないのでは。自分のブランドよりも、決められたテーマに基づいた調香の方がその能力が発揮できるのではと感じてしまう。そういう意味でも、ディオールでの活躍が今から楽しみでもある。