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トバリ:アイアン ウィンド

TOBALI

IRON WIND(2017年)

調香師:不明

おすすめ度:★★★★☆

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画像:公式HPより

 

2021年、突如ブランドそのものがなくなることになったトバリ。それでも、一部の香りはサウザンドカラーズに移行となったが、残念ながらこのアイアンウィンドは移行されずにそのまま廃盤になってしまった。
 

アイアンウィンドは、織田信長の圧倒的な強さと、どこまでも深い情愛を表現した香り。

この鉄の風を纏い、激動の時代を生きて世界を変えた革命的英雄を、サフランや沈香、さらにはアイリスを用いることで、独創性に満ちた、木々の香りとして仕上げられている。

 
トップはスパイシー。
スプレーすると、サフランの鋭いスパイシー感。少し遅れてクローブの湿った辛みや、クミンのビターな苦みのスパイスの厚みが増していく一方で、アンブレッドの白い甘さもしっかり感じられるオープニング。
 
ミドルはウッディ。
鼻先ではアンブレッドに包まれたスパイシー感を漂わせつつ、クローブやクミンの香ばしい部分がウッディと重なることで、湿ったウードの香りとしてまとまっていく。暗さを抑えた、少し甘さも感じられるウードの香り。同時に、バイオレットグリーンの硬いパウダリー感や、アイリスの硬い部分(イロン)が、木々を徐々に「鉄」のように包んでいく。このウッディの表現は斬新で、ウッディよりも硬いベールで包むことで、ウッディが本来持つ甘さや香ばしさ、そして温もりがより伝わってくるような気がする。
 
ベースはウッディ・オリエンタル。
セダーウッドの乾いたウッディ感が強くなりつつも、アイリスの柔らかさや、アンブレッドの甘さもはっきりすることで、全体的にまろやかな落ち着いたウッディの香りに進んでいく。そして、奥からヒドゥンジャポニズム834のアニマリックなウッディが漂ってくる。最後はインセンスの焦げたウッディに、ほんのりバニラの甘さを加え、それらを甘いムスクで包み込むようにドライダウンしていく。
 
持続時間は6時間以上で、アンブレットに包まれた柔らかいスパイシーウッディから、徐々に鉄のような硬さを纏ったウッディまでが2時間くらい、そこからソフトなウッディオリエンタルが静かに続いていく。
 
あまり季節を問わない香り。ウッディの深み、オリエンタルな甘み、スパイシーの鋭さのすぐ横を、柔らかいアンブレットが寄り添うことで、和を尊ぶような独特のジャポニズムアロマティックウッディの世界観が築き上げらている。
 
それにしても、織田信長を香りで表現するとは、とてもトバリらしいコンセプトメイクだと思う。
 
織田信長は信賞必罰がはっきりしていた。
前半のスパイシーやバイオレットに包まれた、空気が張り詰めたような香りは、信長が醸し出していただろう緊張感が感じられる。
そして後半のウッディの深みのなかから香り立つ、アンブレットやバニラのソフトなオリエンタルは、信長の世界への憧れが伝わってくる。
 
個人的には、織田信長であれば、もっともっと革新的で攻めた香りであるべきだとも思う。
それでもこのアイアンウィンドは、その名にふさわしい鉄の風を感じられるような、新たなウッディの表現であることは間違いない。そして風のような心地よいウッディに包まれる、とても使いやすい香り。
 
アイアンウィンドは織田信長と同様に、志半ばにして、わずか4年で世の中から消されてしまった。
まさに、下天のうちをくらぶれば、夢幻の如くなり。