MILLER HARRIS
ÉTUI NOIR(2016年)
調香師:マチュー・ナルダン
おすすめ度:★★★★☆
画像:公式HPより
エチュイノワールは2016年に、ルミエールドーレと同時発売された。ルミエールドーレの朝の太陽の「光」をイメージした香りに対して、エチュイワールはミステリアスでありながらそっと寄り添う「影」をイメージした、レザージャケットを着た人とすれ違った瞬間に感じる懐かしさを表現した香り。
トップはシトラス・ウッディ。
スプレーすると、みずみずしいベルガモットや明るいオレンジに、エレミ樹脂の酸味が爽やかに香る立つ。同時に奥からインセンスのビターなウッディ感が仄かに漂い、シトラスの光に影を落としていく。
ミドルはウッディ・バルサミック。
エレミ樹脂の鋭い酸味を立たせたまま、ジャスミンサンバック?を思わせる、とても透明なアイリスの硬さに、ベチバーを組み合わせたアロマティックウッディの香りに。
奥からはラブダナムやトンカビーンのバルサミックな甘さが、さらに奥の方からインセンスの乾いたウッディ感が香る。さながら、アロマティック・バルサミック・ウッディ三重奏のような香り。特に肌に乗せると、このみずみずしいアロマティック感や、ラブダナムの甘さの広がっていく。
ベースはレザリー・ウッディ。
三重奏のラブダナムやトンカビーンの甘さと、インセンスやアンバーの深みが調和することで、かなりスモーキーでアニマリックなレザーの香りとしてまとまっていく。このラブダナムの香り方は、ディファレントカンパニーのオリエンタルラウンジに少し似ている。最後はスモーキーなレザーに、パチョリの暗さを加えながらドライダウンしていく。
持続時間は5~6時間程度。前半の2時間は、明るさやみずみずしさが感じられるアロマティックウッディ。そんなアロマティック感を残しながら、後半は温もりのあるスモーキーなレザーの香りに。
ミラーハリスのコンセプトは、人の肌をキャンパスに見立てて創られているため、肌に合わせることで初めて香りが完成する。
このエチュイノワールも、ムエットではトップ、ミドル、ベースがはっきり区分されたているが、肌に乗せると感じ方が変わってくる。
レザー部分は動物を思わせる温もりやビター味の強い、どちらかといえば野性味のあるレザー。そんなレザーを、アイリスの硬質な透明感で包み込むことで、まるで水のベールを敷いた、素晴らしいアロマティックレザーとして完成されている。
このアイリスのアロマティック感を立たせているのはベチバーだと思う。
そして、上半身に乗せるよりも下半身の方が、スモーキーなレザーの上に、このアロマティックなアイリスが立つため、このフレグランスの個性が堪能できるように感じている。
名前のとおり、秋から冬の夜に似合う香り。
それでも、おすすめの使用シーンは冬の16時過ぎ。空はすでに暗さを帯びつつある。エチュイノワールの香りはまだ前半で、明るくみずみずしいウッディが香っている。時間の経過とともに、レザーが出てくる。このレザーは表面はみずみずしいアロマティックでコーティングされている。
もしこのタイミングで、ルミエールドーレの香りと邂逅したらどうだろうか。夜のアスファルトに反射するネオンのような、光を帯びたレザーの香りになるのだろうか。
そして夜の深さに合わせるように、エチュイノワールの香りは、何事もなかったように闇に包まれていく。