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ルイ・ヴィトン:ステラータイムズ

LOUIS VUITTN Les Extraits Collection

STELLAR TIMES(2021年)

調香師:ジャック・キャヴァリエ

おすすめ度:★★★★★

 

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画像:公式HPより

 

2021年10月、ルイヴィトンがフレグランスの新しい扉を開けた。

レ ゼクストレ コレクションについて、ジャック・キャヴァリエは次のように述べている。

「私は、誰も足を踏み入れなくなった領域に思い切って飛び込んでみたいと思ったのです。エクストレ・ドゥ・パルファンを現代的に再解釈したい。光をもたらし、何層にも香りを重ねながらも、それと同時に軽やかさも描きたいと。パフュームの基本となるクリエーションそのものを解体したいと考えたのです」(公式HPより)

 

レ ゼクストレの賦香率は30%で、パルファンエクストレの濃度だ。

ジャック・キャヴァリエは、パルファンエクストレを再解釈するため、本来であれば点で付けるようなとにかく濃厚の香りを、複雑で多彩な香り立ちや深みはそのままに、スプレーでもまとえるような軽やかさを実現することを目指した。

加えて、フレグランスの基本となるクリエーションそのものを解体したとしている。フレグランスの主要な香調を見直し、ひねりを与え、広がりを持たせ、いくつかの側面を強調することで、ピュアな美しさを明かしたとしている。

結果、ゼクストレはトップ、ミドル、ベースが区別がなく、実際にかいでみても、確かに香りが大きく変化しない。

 

そしてこのステラータイムズは、神秘的な寺院、モザイク画の庭園、夢のような噴水を探すために、時空を抜ける潜在意識を巡る旅をイメージした香り。

アンバーがその姿を変え、煌めく香りが呼び起こす色鮮やかなビジョンは、空に浮かぶ黄金の宮殿から咲き乱れる花、異国の地で迎える神秘的な夜と美しい夢、魔法の絨毯での美しい逃避行。重力から解き放たれたような自由を表現したオリエンタルな香りとのこと(ポエム過ぎてとっても分かりにくい)。

 

では、ステラ―タイムズは具体的にどのような香りなのだろうか。

 

トップはスパイシー・シトラス。
まず、スプレーした瞬間の圧倒的なエネルギー量に驚かされる。スイートオレンジの爽やかな甘さを、シナモンやクローブのようなスパイシーが刺激していく。奥からはオレンジを焦がしたような濃厚な甘さ、さらにはライムにも似たシトラスがシュワっとした炭酸のようなアクセントとなっている。これらの香りが縦横無尽に駆け回っているようなオープニング。
悪い意味ではなく、ペットボトルからコーラをボトルに注いだその瞬間のようなイメージ。
 
ミドルはフローラル・アンバー。
鼻先では依然、コーラのようにシュワシュワしている。そんなシトラススパイシーの甘辛さの余韻をはっきりと感じながら、奥からオレンジフラワーをスイートアンバーで焦がしたような、濃厚な甘さがどんどん強くなってくる。同時に、アンブロクサンのなめらかなアンバー感や、カシュメランのウッディ感が、フローラルアンバーの甘さを柔らかく、そして引き締めながら包んでいく。
 
ベースはアンバー・バルサミック。
アンブロクサンやカシュメランのウッディアンバーを残しながら、甘いアンバーが抜けてくると、入れ替わるようにペルーバルサムのバルサミックな甘さがはっきりしてくる。そこに暗いドライアンバーや白いバニラを加え、ややメンズ寄りのビター甘いアンバーの香りでドライダウンしていく。
 
持続時間はゆうに12時間以上。さすがパルファンエクストと感じさせるくらい香りが濃く、終盤でも香りが崩れることがない。
 
そして、あまり季節を問わない香り。アンバーを中心に、爽やかさ、甘さ、辛さ、華やかさ、深み、明るさ、暗さなど香りの表現が多彩で、昼夜問わずに使える香りだと思う。
 
このステラータイムズをじっくりとかいでみると、ジャック・キャヴァリアがレ ゼクストレ コレクションで提示した、パルファンエクストレの再解釈とはいかなるものかが見えてくる。この点について解析していきたい。
 
通常のパルファンエクストレは、アルコールが少ない分、トップよりもミドル、ミドルよりもベースに進むにつれて、香りが複雑に、そして濃くなっていく。もし、パルファンエクストレをオードトワレと同じようにスプレーで浴びようものならば、時間の経過ともに香りがどんどん強くなるため、収集が付かなくなる。だからこそ、面ではなくて点で付ける。
 
一方でゼクストレは、明らかにトップの比重が高い。感覚的に、おそらくヴィトンの通常ライン(オードゥパルファン、賦香率15%)と比べると、トップが3~5倍、ミドルは同じ、ベースは1~1.5倍くらいではないかと思っている。トップをこれだけ分厚くしても、通常ラインよりもアルコール量が少ないため、それほど拡散しない。それを逆手にトップを複雑に、そして濃くしたのではと感じる。
つまり濃度が濃くなったそのすべてをトップに注ぎ込んだのでは。まさに逆転の発想。
 
その結果、ゼクストレの香りの特徴は、トップはまるで香りが弾けるように多彩で複雑、ミドル以降はとてもシンプルな作りで、トップの余韻を残しながら、あまり香りが変化することなく、ゆったりと流れていく。
トップのみを過剰なまでのオーバードーズして、ミドルとベースは、トップの香りをなぞるように配置されているに過ぎない。
だからこそシングルノートのような香り立ちになるし、パルファンエクストレ濃度にも関わらず、香りが重くなく、点ではなく面で使用できる。
 
初めて、ゼクストレの香りに触れたときの衝撃は忘れられない。トップの香りをかいだ瞬間、してやられる。
そしてこう感じる。目の前で香りが弾ける、弾けた香りが多彩で、キラキラしている。こんな香り、出会ったことがないと。
で、腕にスプレーすると体温でさらに弾ける。でもパルファンエクストレとは思えない軽さに驚愕する。
 
つまり、従来のフレグランスとは定義が異なっている。今まで体験したことのない、このスプレーした瞬間の輝きに心は興奮し、酔いしれ、そして中毒になってしまうほどに。
 
そういう意味でも、レ ゼクストレ コレクションはフレグランスにおけるエポックメイキングで、それを創り出したジャック・キャヴァリエは、調香界のモーツァルトではなく、香水界の魔術師ではないかと思う。