CHANEL
EGOISTE PLATINUM(1993年)
調香師:ジャック・ポルジュ
おすすめ度:★★★☆☆
画像:公式HPより
まだ学生の頃、それこそ背伸びして、生まれて初めてシャネルのフレグランスを買った。それはエゴイスト(1990年)で、最初は勢いで付けたものの、やはり学生にはハードルが高すぎた。結局、そこから数年間、フレグランスを使わなくなったくらい、エゴイストには打ちのめされた。
それから10年近く経ち、何気なく手に取ったエゴイストプラチナムをかいだとき、これが同じエゴイストかと思うくらい堅実な香りに映った。当時、仕事に熱中していて、それこそフレグランスを楽しむことなど忘れていた時期。そんなとき、エゴイストプラチナムの若々しく、でも少し大人びていて、何よりも男性的な熱気がムンムンしていないバランスの良さに惹かれたことを憶えている。つまり、エゴイストによって閉じられたシャネルの扉が、エゴイストプラチナムによって開かれたわけだ。
それくらいエゴイストプラチナムはバランスの長けた香りだと思う。
トップはハーバル・グリーン。
スプレーするとアロマティック感の強いラベンダーが心地よく香るものの、すぐにローズマリーのメタリックなハーバル感や、プチグレンのグリーンな苦みが一気にハーバルグリーンに寄せていく。そこにネロリのシトラス的な爽やかさや明るさを添えたような、若々しく爽快なオープニング。
ミドルはフゼア・グリーン。
爽やかなハーバルが落ち着いてくると、ようやくラベンダーとゼラニウムでクラシカルなフゼアノートとしてまとまっていく。そこにセージを加えたアロマティックフゼアに、ガルバナムのキラキラしたグリーンでまとめた香り。アロマティック感がそれほど主張しないため、よくあるメンズフレグランスのようにギラギラしていないのが良い。
ところが、そのガルバナムにメタリックなオークモスやベチバーのウッディが絡み始めると、ガルバナムのグリーンが翳りが出て来て、少し鼻に付く。
ベースはウッディ・フゼア。
ガルバナムが乾いてくると、一気に土っぽくなってくる。灰色のベチバー、セダーウッドやドライアンバーが重なることで、暗い印象に向かっていく。そんな寂しげな乾いたウッディフゼアに、オークモスのキンキンしたアーシー感が、このフレグランスの特徴ともいえるハーバルグリーンな面影を留めている。
最後はクリーミーなサンダルウッドが柔らかく包み込むようにドライダウンしていく。
前半2時間のクラシカルなフゼアと、フレッシュなハーバルが融合した香りは、スマートで洗練された雰囲気がある。逆に後半はフレッシュさは渇き、全体的にトーンダウンしていくように、5時間くらい持続する。オードトワレと思えないくらい、しっかりした香り立ちだと思う。
あまり季節を問わない香り。控えめなフゼアにも関わらず、街中ですれ違っただけでエゴイストプラチナムと分かるようなキャラクターを備えているのだから、さすがシャネルだと感じる。
改めて、エゴイストとプラチナムを嗅ぎ比べると、自由奔放で派手好き兄貴と、堅実で地味な弟というイメージに映る。
そう、間違いなく、エゴイストは先取りし過ぎていたと思う。30年以上も前の香りなのに、エゴイストは女性が纏っても違和感のない華やかさと、強烈なキャラクターがある。
エゴイストがあまりにも前衛的な香りだったため、プラチナムは誰からも愛されるような香りにしたのでは。
プラチナムについて公式HPでは「社交的でありながらもさわやかな個性を持った男性を想わせる、いきいきとした魅力に満ちたフジェールグリーンノート」と説明されている。
爽やかで、落ち着きがあり、気取ってなく、気品がある。誰からも嫌われないような気配りがあり、バランス感覚が抜群。その姿はとても社交的に映る。
派手さこそないが、クールで知的な香りなので、ビジネスシーンにはうってつけの香りだと思い、私自身もオンタイムで愛用していた。
それでも、社交的に振る舞うのは疲れるし、兄貴のように自由になりたい。実は爽やかさと寂しさのギャップこそがプラチナムの魅力で、そういうところも含めて、大人と感じさせる香りだと思っている。
オンのプラチナムとオフのエゴイスト。