MAISON CHRISTIAN DIOR
BOIS D'ARGENT(2004年)
調香師:アニック・メナード
※2018年にフランソワ・デュマシーが調整
おすすめ度:★★★★☆
画像出典:公式HP
ディオールフレグランスの最高峰、メゾン クリスチャンディオール。
その前身、ディオール ラ コレクシオン プリヴェから移行してきた作品は、どれも傑作揃いだと思う。なかでも最古参のボアダルジャンは、流行りに流されることのない、希少かつ高級なフィレンツェ産アイリス アブソリュートが堪能できる香り。
トップはアロマティック・オリエンタル。
スプレーすると、一瞬だけシャリマーを思わせるオリエンタルが鼻を突く。
でもサイプレスの硬いウッディ感や、ジュニパーベリーのみずみずしさがすぐに包み込んでいく。
さらにうっすらとアイリスやパチョリが見え隠れする。香りの全体像はやわらかく静寂。それでいて、やさしく包み込んでくれるような包容力のある、どこか懐かしさを感じさせるようなオープニング。
ミドルはパウダリー・バルサミック。
しばらくすると、トップのみずみずさはアイリスの香りだったと気づかされる。透明で軽やかな素晴らしいアイリスの音色。
そのアイリスに、ミルラの酸味とまろやかなコクや、ウッディの硬さ、バニラの柔らかな甘い香りが溶け込んでいく。高音はアイリスとミルラのみずみずしい緊張感と神秘的なやわらかさを共存させた香り。中心部はアイリスのパウダリー感とやわらかなバニラの甘さ、低いところには少し湿ったウッディが漂っている。
ベースはバルサミック・ウッディ。
鼻先はミルラのなめらかな酸味を残しながら、ハニーバニラの甘さと、パウダリーなウッディが強くなってくる。徐々にウッディはレザーの柔らかさを加え、ハニーの甘さはアンバーで焦げていく。最後は淡いムスクが包みこむようにドライダウンしていく。
まるで肌を優しく抱擁するように、静かに包み込んでくれる香り。季節や時間を問わずに使うことができる。下半身に使用すると、やわらかな甘さ、パウダリーなウッディの心地良い温もりに包まれる。
ボアダルジャンは神秘的なアイリスの香り。
このアイリスアブソリュートは、重厚なパウダリーにみずみずしく軽やかな上澄み液を含んだような香り。ぜひこのアブソリュートそのものをかいでみたくなる。そう考えると、ミルラは効きすぎかもしれない。
メゾン クリスチャンディオールに移行した結果、香りもマイナーチェンジされた。アイリスアブソリュートの上澄み部分が淡くなり、ムスクが強くなることで、全体的に香りが薄まり、ぼやけたようにも感じられる。
とはいえ価格が下がり買いやすくなり、淡くなることで使いやすくなった点はとても良かったと思う。
ところで、アニック・メナードの三大傑作はガイアック10、ボワダルメニ、そしてボアダルジャンではないだろうか。いずれの作品もトレンド、年齢、性別、国籍を問わない、香りを着るというよりも、肌や心に寄り添うような傑作だと思う。こういう系統の香りを創ることに長けたパフューマーだと思う。
そのなかでもボアダルジャンのアイリスは、ディオールらしい洗練された雰囲気を演出しつつ、肌をやさしく撫でるような優美さと、神秘的な出で立ちが深く記憶に残るような香り。