GUERLAIN
ROSE CHÉRIE(2021年)
調香師:デルフィーヌ・ジェルク
おすすめ度:★★★★☆
画像:公式HP
2021年9月にリニューアルされたラール エ ラ マティエール。ローズシェリーとサンタルパオロッサはその第一弾として発売された。
ローズシェリーは、ゲランの愛の宣言であり、調香師の間で最も愛されている花に敬意を表した作品。それは「バラ色の人生」のようで、曲に例えるならばエディット・ピアフの「バラ色の人生」としている(なぜか新生ラール エ ラ マティエールはすべて絵画や音楽などの芸術に例えている)。
ローズが主役のローズシェリーには、ブルガリアとトルコで手摘みされたローズウォーター、ローズエッセンス、ダーマシーナローズのアブソリュートに加え、非常に人気の高いフランス・グラース産のセンチフォリアローズを使用することで、あらゆるニュアンスと形が表現されたローズの香りとのこと。
トップはフルーティ。
スプレーすると、ベリーの可愛らしい甘さと、杏仁豆腐を思わせるアーモンドのアロマティックな硬い甘さの杏仁豆腐を思わせる香り。そして少し遅れてライチが、トップの杏仁をみずみずしく整え、このフレグランスの主役ローズをエスコートするようなオープニング。
ミドルはローズ。
このアーモンドベリーに、ローズがスッと乗っかってくる。先端はベリーの少し埃っぽい甘さが鼻に付くものの、アーモンドの青みがかった硬さがローズの酸味をみずみずしく立たせ、奥からはローズの華やかな甘さが広がっていく。
さらにその奥からはヘリオトロープに包まれた、淡いピンク色の可憐なローズが姿を現す。このパウダリーなピンクローズは、華やかなローズよりも軽やかなため、華やかなローズの上を行ったり来たりと、どこか落ち着きがない。
それでも、鼻先にはアーモンドに包まれたアロマティックなローズが香り全体の輪郭を縁取っているため、このピンクローズが躍っているようで、とても若々しい明るさに満ちている。
ベースはローズ・ムスキー。
何層にも重なったローズは、アロマティックな硬いローズと、パウダリーな柔らかいローズに収れんされて、その柔らかいローズをトンカビーンやムスクが仄かな甘さを加えながら優しく包み込んでいく。
そしてこの硬いローズと、トンカビーンの甘さを加えたローズとの組み合わせが、どこか桜っぽく感じられる。やがて、液色のような桜イメージは、バニラやアンバーの香ばしい甘さや桜の樹の幹のような香ばしさを加えながら、それらを柔らかいムスクが上品にまとめながらドライダウンしていく。
フレッシュなアーモンドや、柔らかいムスクやトンカビーンなどが華奢に映るものの、中心のローズは分厚く、それに負けないアンバーやバニラのベースがしっかりしているため、6時間以上しっかり持続する。
様々なローズを楽しめる、あまり季節を問わない香り。
それでも、アーモンドやトンカビーンが絡み合ったローズは、まるで桜のようにそっと心に寄り添ってくれるため、これほど春に似合うローズの香りはなかなかないのではと感じる。
それも日本人が好きな、あの儚げで淡い桜のイメージではなく、春風に舞う大量の桜の花吹雪。
本格的なローズを楽しみながら、何気ない日常をハッピー色に染めていくようなハレの香り。それはまるでローズのポジティブシャワーのよう。
派手なのにうるさくなく、華やかでいてとても上品。
甘さを感じながら、樹々に身を委ねるような安心感。
そして清潔な白イメージに包まれる。
ローズシェリーは、ローズを汚すことでローズの違った側面を提示したローズバルバルとは対照的なローズの表現であり、稀少な原材料と芸術性が融合した、ラール エ ラ マティエールらしい香りだと思う。