BOND No.9
HIGH LINE(2010年)
調香師:ローラン・ル・ゲルネック
おすすめ度:★★★☆☆
画像:公式HP
ハイラインとは、ニューヨークのマンハッタンの廃線となったウエストサイド線を再開発した、空中緑道・廃線跡公園のことで、その全長は2.3kmにもわたる。
実際にハイラインの写真を眺めてみると、都市の中に連ねる緑道の美しさに見とれ、心が安らぐ。
フレグランスのハイラインは、そんな空中の散歩道に咲き乱れる、野花と野草を表現した香り。
トップはグリーン・スパイシー。
スプレーすると、目が覚めるようなフレッシュなグリーン。そこにルバーブのハーバルともスパイシーとも取れる甘さや、アロマティックなベルガモットを重ねることで、新緑のような清々しさやみずみずしさに包まれていくオープニング。
ミドルはフローラル・グリーン。
トップのフレッシュグリーンの奥から、すぐにローズが力強く香ってくる。この野性味溢れるローズは、スパイシーで少し生臭い。でも、みずみずしくも青々としたグリーンに囲まれた野生のローズは、どこかチューリップのような雰囲気があり、ハイラインの美しいボトルのイラストが再現されている。
そこからグリーンが丸みを帯びてくると、奥からオレンジフラワーがフローラルの厚みを増し、さらにヒヤシンスの透き通るようなみずみずしい硬さが、香り全体を洗練されたフローラルグリーンの香りにまとめていく。このあたりの香りは、ユーヌ フルール ドゥ シャネルと少し似ているようにも思える。
ベースはウッディ・ムスク。
やがて、少しメタリックなグリーンや、ピリッとしたスパイシーに包まれたフローラルの残香を、ビターなセダーウッドで深みを与えながら、フローラルなオゾンや淡いムスクが香り全体を和らげ、そのままドライダウンしていく。
最初に2時間弱は、緑や赤の色彩鮮やかなグリーンフローラルの香り。後半はそういう要素を残しながら、徐々にマイルドにまとまっていき、淡い香りのまま全体では5~6時間持続する。
輪郭のはっきりしたグリーンやフローラルの香りで、春から夏にかけてとても似合うと感じる。春の晴れた日のハイライン公園の雰囲気をそのままフレグランスにしたような香りで、トップからミドルはキラキラ鮮やか、でもベースは淡く、香りが重く沈んでいかないため、夏でも爽やかなグリーンフローラルを楽しむことができる。
ハイラインはコンセプトを香りとして体現し、かつ細部まで創り込まれた香りだと思う。
香りの構成を見てみると、公園に生い茂るグリーンやフローラル、水を思わせるアロマティックなオゾンノート、そして都会的な硬さ。それら要素の一つ一つの主張が強く、どれも大味。加えて、随所から金属(鉄道)的をニュアンスも伝わってくる。でも、それは人の手によって創り出された、ハイラインの人工的な美しさとリンクする。
グーグルマップで都心を眺めてみると、その緑地の多さに驚かされる。街を歩いていても、意外なほど自然を感じ取れる。そう、都会にとけこんだ緑は、自然が織り成す緑とは異なり、まるで美術館のように人工的に編集されている。
そして、その都会の中に点在する緑の方が日常的になってくると、逆にこういう人工的な緑の方が、私の目には落ち着いて見える。
ハイラインはそんな都会と調和するような、グリーンフローラルの香りだと思う。