SHIRO
SAVON(2010年)
調香師:不明
おすすめ度:★★★☆☆
画像:公式HP
近年、もっとも人気のあるフレグランスを挙げるとすれば、シロのサボンではと思う。実際にこの香りをまとった人とすれ違うケースも多く、また店頭を横目に見ると、若い男女を中心に行列が出来ていることがある。
過去、サボン(石けん)の香りはいくつもあった。そのなかで、このシロのサボンの香りが多くの人に受け入れられるのはなぜだろうか。
トップはシトラス・フルーティ。
フレグランスらしからぬ?ボディミストのようなスプレーを吹いてみると、爽やかなグレープフルーツと、ジューシーなオレンジのベタ甘さ。このオレンジ甘さとフルーティな酸味の組み合わせがヤクルトに似た香りとなって広がっていく。その甘さをアロマティックなグレープフルーツや、キリッとしたカシスが引き締めているようなオープニング。
ミドルはフルーティ・フローラル。
アロマティックなシトラスグリーンの爽やかさや、ヤクルト甘さをしっかり香らせ、奥からはみずみずしいミュゲやジャスミン、明るいローズのいわゆる石せん調フローラルブーケ。
この絵に描いたような清潔で透明感のあるフローラルが、フルーティなベタ甘さを白色に染めていく。
ベースはアンバー・ムスク。
鼻先はシトラスグリーンを残しながら、フローラルが落ち着いてくると、ベース部分の淡いアンバーや、パウダリーなウッディムスク、さらにはバニラの粉っぽい白さがはっきりしてくる。
シトラスグリーンやヤクルト甘さの残香と、粉っぽいバニラアンバーが重なることで、どこかラムネを思わせる香りとなり、最後はパウダリーなアンバームスクに包まれ、ドライダウンしていく。
持続時間は4~5時間くらい。
肌に乗せてみると、最初の1時間はかなりヤクルト的なフルーティ甘さが強い。とはいえ、グレープフルーツやカシスのみずみずしく爽やかな香りが上の方に立つため、男性でも違和感なく使うことができるのではと思う。
そこから、華やかさを抑えた清潔なフローラルを加えながら、パウダリーな石せんの香りに流れていく。季節を問わない香りだと感じる。
それでは、なぜサボンは日本人の琴線に触れるのだろうか。
まず、香水らしくない香りが挙げられる。フローラルの華やかさではなく透明感をフルーティの後ろに置き、清潔な石けん調で包み込むことで、誰からも嫌われない香りに仕上げられている。でもそんな香りはごまんとある。
ポイントは強い甘さでキャラクターを付けている点だ。例えば、甘酸っぱいベリーや、濃厚なバニラで甘さを付けていたら、香水ぽくなってしまう。
でもサボンでは、乳酸飲料やラムネのような、性別や世代を問わない、日常的な甘さでキャラを付けることで、つまりは香水ぽさとは違う香りを創り出している。
私のようなフレグランスジプシーは、フレグランスに非日常を求める人が多いと想像する。ファッションやメイクの仕上げ、気持ちを高めたり落ち着かせたり、家での生活をラグジュアリーに演出したりなど、シーンやシチュエーションによって選ぶ香りが変わってくる。例えば、ファッションやヘアスタイルを決め、最後にフレグランスで仕上げをという段階で、日常を清潔に彩るサボンの香りは選びにくい。サボンの香りはシャワーの後などに似合う。そう考えると、サボンはオードゥパルファムよりもボディミストの方が使いやすいかもしれない。
結果として、サボンは香水ぽい香りと距離を置いていた層を獲得し続けているのでは思う。
最後に、このレビューを書くにあたり、公式ホームページをチェックしてみると、国際機関(IFRA)の規制により、2022年9月からサボンの一部香料が変わるとの案内が出ていた。長年、フレグランスを愛用していたが、知らぬ間に香料が変わることは多々あっても、具体的にいつから変わると案内を出したケースはあまり知らない。ブランドのこういう誠実な姿勢も、多くの人から愛される理由かもしれない。