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フレデリック・マル:ミュージック フォー ア ホワイル

FRDERIC MALLE

MUSIC FOR A WHILE(2018年)

調香師:カルロス・ベナイム

おすすめ度:★★★★★

 

画像:公式HP

 

カルロス・ベナイムが創り出したミュージック フォー ア ホワイルは、香りを音楽になぞらえた芸術性と娯楽性の高い作品。

明るさと暗さ、新しさと懐かしさ、バブリーな印象と落ち着いた雰囲気。これらのコントラストを、パープルラベンダーとパイナップルイエローに託した香り。そして何よりも、嗅覚を喜ばせるような楽しさに溢れている。

 

トップはハーバル・フルーティ。

スプレーした瞬間、爽やかなマンダリンとみずみずしいベルガモットの香り。そのシトラスミックスにフルーティの甘さに、アニスが酒っぽいアロマティックを添え、それらフルーティシトラスをこじ開けるように、硬質なラベンダーが香り立つ。相反するキャタクターを衝突されたような、とてもキャッチーなオープニング。

 

ミドルはフルーティ・アロマティック。

鼻先では、甘さに包まれたラベンダーの硬いハーバルアロマティック感、そこにパイナップルの存在感が増してくる。ハーバルと調和した、かなり青く硬いパイナップルの香り。

奥からはゼラニウムがアロマティックを補強していくことで、パイナップルのみずみずしさが強くなってくる。パイナップルそのものは甘さよりも酸味が強く、加えてハーバルな硬さを残っているため、みずみずしいフルーティ甘さを漂わせながらも、甘ったるくない。さらにゼラニウムには明るめのローズを含ませることで、暗いアロマティックに沈んでいかない。

稀有なフルーティ・アロマティック・ハーバルの香りだと思う。

 

ベースはフルーティ・ウッディ。

鼻先はアロマティック・ハーバルの硬さを残しながら、次第にパチョリやラブダナムのスモーキーなウッディが濃くなっていく。パイナップルも青さや酸味を香らせながら、底の方からバニラのグルマン甘さを加えることで、甘さが熟されていく。

時間とともにパイナップルは丸みを帯び、スモーキーなウッディがどこか退廃的なニュアンスを与えながらドライダウンしていく。

 

硬質なラベンダーを主体とした香りが1時間くらい。そこからさらに1〜2時間かけてフルーティの甘さや酸味を増し、ハーバル部分は煙たく、フルーティ部分は柔らくなることで、2つの香りが重なるように、全体では5〜6時間持続する。

 

季節に寄り添う気持ちなどさらさらなく、個性を炸裂させたような香り。

それでも、ワクワクするような明るさと、キリッとした硬さからスモーキーな深みに移ろっていくさまに触れると、夏の夜にもっとも使いたくなる。

 

夏の夜、仕事を終えた後、ミュージック フォー ア ホワイルに着替える。そのままライブハウスに踏み込み、「つかの間の音楽」に酔いしれる。もしくは夜な夜なネオンの下を歩く。そんなシチュエーションを勝手に妄想する。

休日の昼間でも面白い。一気に非日常な空気に誘ってくれる。底抜けの明るさと、疲れの抜けない身体の重さ。それぞれに馴染んでいくように。

 

ミュージック フォー ア ホワイルについて、、、パリのリヴ・ゴーシュのパーティ。とある女性の毛皮のコートが裸の肩から脱がされ、首筋がろうそくの光にさらされている。多くの人の視線を感じながら、彼女は微笑みながら立ち止まり、まるで征服者のように影から姿を現す、、、とマルは表現している。

 

きっと女性が纏うと、そういう雰囲気になるかもしれない。

逆に男性が纏うと、クラシカルなラベンダー、アロマックスな硬さ、そして煙たい印象の男性らしさから、フルーティーやグルマンの甘さが放たれることで、唯一無二の官能的なラベンダーの香りが完成されている。

女性的な側面と男性的な側面が、細部にわたるまで絶妙に調和している。良い音楽は細部に宿るように。

 

マルの世界観とは、香りをファッションのように着ることだと思う。肌着や白いワイシャツやリネンような香りなど一つもなく、かなり独創的なものばかりだ。

このミュージック フォー ア ホワイルもその奇抜さに、着ることを尻込みしていた香りだった。

でも、一度着てしまうと、その楽しさに浸り、もう戻ることができない。