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新作フレグランスチェック:ローズトネール(ユヌローズとの比較)

FRDERIC MALLE

ROSE TONNERRE

2022年6月15日発売

 

画像:公式HP

 

2021年、フレデリック・マルの代表作「ユヌローズ」が廃番となり、その後継品が新作「ローズトネール」である。

なかなか日本での取り扱いにならなかったが、ようやく2022年6月15日に発売された。

ユヌローズをこよなく愛するいちファンとして、薔薇の雷鳴と名付けられた後継品はどんな香りなのか、それをユヌローズとの比較という視点でチェックしてみた。


ユヌローズはエドゥアール・フレシェの手によって2003年に発表された。

薔薇の豪奢さにトリュフで陰影を与えることで優美さを極めたパルファムであり、一輪の薔薇が持つ至高性を表現した香り。

 

ユヌローズは解析はこちら↓

 

一方、ローズトネールは同じくエドゥアール・フレシェの作品であり、海外では2021年に発売されていた。

公式HPには、アーシーなローズを基調にペリゴール産のトリュフを使用したゴシック調の「ダークローズ」の香りとしている。コンセプトはユヌローズに近い。そしてどちらも「香水(パルファム)」濃度だ。

さらにHPには、ユヌローズはローズトネールとして生まれ変わったこと、名前は慎重に選んだこと、処方を変えずにこのアーシーで真にユニークなバラの強さを反映させたことなどが記されている。

加えて、フレデリック・マルが「エドゥアール・フレシェの最後の偉大な香水をプロデュースしたことを誇りに思っている」と述べられている。

 

それではローズトネールとユヌローズの香りを比較してみる。尚、ローズトネールを「娘」、ユヌローズを「母」とした。

 

スプレーした瞬間の、ツーンと鼻を刺激するスパイシー、グリーン、そしてアロマティックを帯びたローズの香り立ちはかなり近く、パッとかいだ印象では差はあまり分からない。

それでもその鋭さが抜けてくると、香りの違いが少しずつ出始めてくる。母の特徴でもあったボディー重めの赤ワインを思わせるような深みや酸味が、娘ではかなり抑えられている。そのため、娘の方がゼラニウムのスパイシーな辛さが際立ち、アロマティックなローズがより軽やかで明るく感じられる。

 

そこから、母はフルーティの酸味やアロマティックな重さや暗さを増していくが、娘はその部分が抑えられているため、軽やかなアロマティックローズの赤さがより鮮やかになっていく。さらに、トリュフらしい芳醇な風味はしっかり残しながら、カストリウムのクセのある温もりもかなり抑えられている。

逆に娘はマニマリックな深みよりも、ムスクの柔らかさが分厚くなっているため、ローズの甘さや赤さがより分かりやすく感じられる。


時間が経つにつれ、母はトリュフの深みの中にローズが溶け込んでいくのに対し、娘はあくまでもローズを中心に置き、ローズにトリュフ味が帯びているようなイメージ。そのトリュフよりも先にムスクが抜けていくことで、トリュフを構成するパチョリやカシュメランの深みを含ませたままドライダウンしていく。

結果として、暗さのトーンこそ違えど、残香はとても似ていると感じる。


共に付け始めから1時間強は、ローズのアロマティックな硬さが鼻に付くが、そこから静けさを増し、それぞれ12時間近く持続していく。

 


全体的にみてみると、ローズトネールとユヌローズはあくまで香りのパーツそのものは同じであり、新しいパーツが加えられたり減らされたりしていないように感じる。

 

ローズトネールでは、ユヌローズにあった赤ワインのような重さ、カストリウムの温もり、ウッディの暗さなどを控えめにすることで、逆にローズのアロマティックな硬さや軽さ、ローズの甘さや赤さが際立っている。また、ムスクの印象を強めることで、全体を覆っていた暗さがかなりマイルドになっている。

明らかにローズトネールの方が使いやすく、そして現代的に仕上げられていると思う。

 

 

ユヌローズは、季節と調和することや肌に溶け込むことを拒むような、月の光に照らされた野に咲く一輪の薔薇を土ごと切り取って、そのままフレグランスにした孤高の薔薇。着飾ったローズの花束とは対極にある、野生の薔薇の強さと美しさを表現した香り。これは誰からも好かれるようなローズの香りでは決してない。


そんな孤高の一輪薔薇の頭上から
雷鳴が轟く。眩しさに視界が白く霞む。

ローズトネールは、雷の眩さで陰影が消え去り、ユヌローズの核でもあるローズの芳醇な風味を、より鮮明に捉えた香りのように思えてくる。

明度が上がり、ローズの香りがよりクリアになることで、おそらく、ユヌローズが苦手でもローズトネールは好きと感じる人も多いのではないだろうか。

 

そして、ローズトネールの香りに魅せられると、もっと芳醇な、もっと複雑な、もっと生花的なローズの香りに包まれたくなるのではと思えてくる。つまりローズトネールからユヌローズに進んでいくケースはあれど、一度ユヌローズに鼻を掴まれてしまうと、もうローズトネールには戻れないのではと感じる。

 

母は娘を産むことができても、娘は母を産めない。 ユヌローズとローズトネールの関係は、常に一方通行だということを最後に添えておきたい。