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ルイ・ヴィトン:フルール ドュ デゼール

LOUIS VUITTON

FLEUR DU DÉSERT(2022年)

調香師:ジャック・キャヴァリエ

おすすめ度:★★★☆☆

 

画像:公式HP

 

フルール ドュ デゼール(砂漠の花)は、ルイ・ヴィトンのオリエンタルパフュームコレクションの5作目にあたる(日本ではオンブレ ノマド(2018年)、レ サーブル ローズ(2019年)、ニュイ ドゥ フ(2020年)に続く4作目で、ピュア ウード(2021年)は日本未発売)。

ジャック・キャヴァリエはこの砂漠の花について、「東洋のさまざまな地域からキャラバンでヨーロッパに運ばれたジャスミン、オレンジブロッサム、ローズ。そこで思い付いたのは、これら自然の驚異をありのままの形で体現することでした」と述べている(公式HPより)。

そしてその中心に砂漠を置くことで、3つの花へオマージュを捧げ、コントラストを織り成す色彩豊かな香りを生み出したとしている。

ウードの深みと花々の蜜のように甘やかな芳香が混じり合い、優美なコントラストを織りなす香り…ジャック・キャヴァリエの目的は果たされたのだろうか。

 

トップはフローラル・スイート。

スプレーするとジャスミンがふわっと広がる。ハニーがフローラルの甘さを引き立たせ、シナモンのスパイシーなクセを効かせた、かなりエキゾチックで鮮やかなジャスミンの香りだ。

スプレーしたその瞬間、一瞬で中東に咲く、真っ白い花々が包まれるような、魅惑的なオープニング。

 

ミドルはフローラル・ウッディ。

スパイシーなシナモンに誘われるように、ハニーをまとった甘いローズも広がり始める。蜜のような甘さの真っ赤なローズ。でもこちらはエキゾチックというよりも、ジャスミンやオレンジフラワーと纏うことで、みずみずしさに溢れている。

同時に、ウードのウッディ感が漂ってくる。フローラルのみずみずしさとは対照的に、ウードの香ばしい暗さが、まるで砂が舞っているように、まさしく砂漠の風の中に咲く花々のようなイメージを演出している。ここまで1時間くらい。

ジャスミンのみずみずしさが減退してくると、オレンジフラワーのコクやジャスミンのウォータリーな残香が、ローズの蜜甘い部分と融合し、再び赤から白に移ろっていく。

そして、それを見届けるかのように、ウードがピリッとしたアクセントだけ残し、アンブロクサンがウードの暗い色に染めることなく、さらさらとした白い砂のような印象でまとまっていく。ここまでが2時間くらい。

 

ベースはアンバー。

気が付くと、フローラルの花感よりも蜜感が前に出てくる。フローラルの甘さや酸味の余韻が、砂のようなウードを纏ったアンブロクサンに包まれるように、6時間以上持続し、次第にドライダウンしていく。

 

花々のエキゾチックな甘さと、砂漠のように静寂なウードやアンバーを対比させた香り。夏や春であれば夜、冬や秋であれば日中からでも使えるのえではと感じる。

 

スプレーした瞬間は、それこそ乱気流のようにフローラルの華やかさ、みずみずしさ、甘さが入り乱れ、弾ける。そんな花々の舞いに、ウードの砂感が絡みつくことで徐々に落ち着いていき、砂漠にはフローラルの甘さや酸味を含んだ風がそよいでいる。

このフルール ドュ デゼールの、トップからミドル前半の香りがスパークする流れは、いつ触れても魅せられる。これは、ゼクストレで表現した手法と同じ、ジャック・キャヴァリエが織りなす魔法だ。ムエットで香らせる限り、上記のような香り方を堪能できる。

 

ところが肌に乗せると、想像していた以上にフローラルが輝きを失うのが早く、甘い残像を含んだ砂漠のようなウッディアンバーのみ香り続ける。

あの手法はゼクストレの賦香率だからこそ成し遂げられたのかもしれない。加えて、ヴィトンが売りとするローズやジャスミンは生花のようにフレッシュな反面、とても軽やかなため、飛んでしまうのも早い。

結果、砂漠に咲く花は、早い段階で砂塵に覆われてしまう。

 

個人的には、同じフローラルウードでも、ローズ、ウード、ローズが交錯しながら、アンバーグリスに包まれていくレサーブルローズの方が完成度が上だと感じる。

 

残念ながら、ジャック・キャヴァリエの魔法が今回はかからなかったらしい。