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キリアン:ヴレヴ クシュ アヴェク モワ

KILIAN

VOULEZ-VOUS COUCHER AVEC MOI(2015年)

調香師:アルベルト・モリヤス

おすすめ度:★★★☆☆


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画像:公式HP

 

ヴレヴ クシュ アヴェク モワは「私と寝ない?」の意で、なんともまあ挑発的なネーミングだ。

とらえどころがなく、エレガントで、夜まで続く香りとしている。

 

元々、イン ザ ガーデン オブ グッド & イーブル コレクションとして、2015年の発売された。現在はナーコティック コレクションとなっている。

 

果たして、欲望を掻き立てるような挑発的な香りなのだろうか。

 

トップはフローラル・シトラス。

スプレーした瞬間、レモンやオレンジを含んだ、眩いばかりに美しいネロリと、イランイランの黄色くクリーミーな花の断片が広がる。ほんのり感じられるシトラスの酸味が若々しく、清々しい。

 

ミドルはフローラル。

爽やかなネロリに照らされた、ほんのりクリーミーな黄色いイランイランに鼻先をくすぐられながら、奥から濃厚なフローラルが迫ってくる。ガーデニアのツーンとした甘さ、花弁に水気が滴るようなイランイランの厚み、そして官能的なチュベローズのコク

初々しさの残るガーデニアが恥じらい、女性らしいイランイランが挑発し、魅惑的なチュベローズに溺れていく。このフローラルの三重奏が渦のようにうごめくき、その香りは花粉の嵐の中に顔を埋めたかのように鋭く、攻撃力であり挑発的だ。

ところが、鼻先に残っているシトラスや、明るいローズの酸味が、フローラルの緊張感を少しずつ和らげていく。

 

ベースはフローラル・ウッディ。

フローラルの迫力がクリーミーなサンダルウッド、真っ白いバニラの甘さやムスクでまろやかに落ち着いてくる。さながら白いキャンパス地をバックに、さらに表層をローズの酸味で覆うことで、あれだけ挑発的だったフローラルが淑やかに映る。

やがて、ツンとしたフローラルは、クリーミーがサンダルウッドやパウダリーなバニラムスクと一体となり、クラシカルな趣き、さらには貞淑なフローラルウッディの表情を見せながらドライダウンしていく。

 

あまり季節を問わない香り。個人的には空気が乾燥した、秋から冬にかけての日中の香り立ちがひときわ美しく、やや空気が湿った春や夏の夜がもっとも妖艶な香りではと思う。

 

白や黄色の花々が入り乱れ、濃厚な花粉をはためかせた香りが2時間くらい。そこからバニラの甘さを加えるも、愛欲に溺れることなく、クラシカルな落ち着きのあるフローラルが5時間以上持続する。

 

ヴレヴ クシュ アヴェク モワの、ツンと鼻を突く花粉の誘惑と、ほんのり甘いクリーミーな花の蜜とのギャップ。

香りはこの世界観の一部に過ぎず、ボトルやケースと合わせることで初めて完成するような、実にキリアンらしい作品だと感じる。

 

エデンの園をテーマにしたこのコレクションのなかで、唯一ヴレヴ クシュ アヴェク モワだけフルーティ要素が感じられない。なぜなら、エデンの園を追放された後の香りだから。そして発売当時、このコレクションでは初めて黒ボトルが採用された。

 

蛇にそそのかされて、禁断の果実を食べてしまったアダムとイヴは、二人ともエデンの園から追放された。コレクションの他の香りは、イブの善悪をテーマにした香りに対して、この作品のみアダムとイブの二人がテーマあり、このケースのみ二匹の蛇があしらわれている。

 

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(右がグッドガール ゴーンバッド エクストリーム、左がグッドガール ゴーンバッド他)

 

そして、ケースを眺めてみると、二匹の蛇は距離があり、触れあっていない。

 

太陽の光を浴びながら、甘い花粉を振り撒き、挑発してくる。私と寝ない?とささやきかける。

 

二人は寝たのだろうか。

それは分からない。

 

それでも、ヴレヴ クシュア ヴェク モワは愛欲に溺れていく香りではない。

娼婦のように演じながら、内心は挑発と貞淑と間によろめく香りではないかと思っている。