KILIAN
ROSE OUD(2010年、2022年復刻)
調香師:カリス・ベッカー
おすすめ度:★★★★☆
画像:公式HP
ローズウードは元々、アラビアンナイト コレクションとして2010年に発表された(日本未発売)。今回、ブランド15周年を記念して、セイクレッドウッドとともに復刻された作品。
オリジナルはかいだことがないが、ネットなどを確認してみると、復刻版とは香りが異なり、その名のとおり、もっとウードを効かせた香りだったのではと想像する。
この復刻版は「燃えるようなローズのブレンドを表現した」香りであり、キリアンの作品のなかで、これほど赤ボトルが似合う香りはないのではと感じている(ローリング イン ラブ(2019年)やア キス フロム ア ローズ(2021年)以上に)。
燃えるようなローズの香りとはどんな香りなのだろうか。
トップはスパイシー・フルーティ。
スプレーした刹那、ウードが鼻をかすめる。でもすぐに立ち消え、シナモンのクセを絡ませたサフランの鋭いスパイシー感がツンと鼻を刺す。
ここからエキゾチックなローズが広がるのではとの予想を裏切るように、甘さを抑えたベリーやライチを思わせるみずみずしさが弾けた、フルーティなローズから幕が上がる。
ミドルはフローラル・スパイシー。
トップのみずみずしいスパイシーやフルーティに包まれながら、奥からローズウード系の定番のサフランローズが香り立つ。このローズにはゼラニウムが添えられているため、エキゾチックとアロマティックの間のローズの香り。
ほんのりアニマリックなアクセントを感じるが、これはウードではなくセダーウッドアトラスで、徐々にこのアニマリック感がはっきりすることで、ジャーミーなローズの赤い甘さの存在感が色濃くなってくる。
ベースはローズ・ウッディ。
鼻先ではエキゾチック、アロマティック、ジャーミーの3色のローズが花を開かせ、奥からシプリオールの白イメージの硬めのウッディが包み込んでいく。とはいってもあくまで主役はローズの香りだ。
やがてアクセントのセダーウッドや、ほんのり見え隠れするウードの暗さが、まるでブラックライトでローズを照らすように、ローズの燃えるような赤さや、ジャーミーなローズの鮮やかな甘さを引き立たせていく。最後にようやくウードの影を漂わせながら、それでも真っ赤なローズ色のドレスのまま、ドライダウンしていく。
持続時間は4~5時間くらい。
ウッディの暗さや温もりに沈んでいかない、季節を問わない香りだと思う。このボトルのような赤が似合うシーンや、夕暮れ時に映えるのではと感じる。
まさに燃えるようなローズのブレンドが表現されている。
ブルガリアのローズオイルとローズアブソリュートを中心に、スパイシー、フルーティ、アロマティックで、ローズという炎を燃やしたような香り。
炎の構造のように外炎、内炎、炎芯があり、外炎がスパイシーなエキゾチックローズ、内炎がアロマティックな硬いローズ、そして炎芯がジャーミーなキリアンローズ。
終始ローズの香りでウッディは脇役というよりも、背景や陰影であり、ローズの炎感を演出している。ウードを期待すると間違いなく裏切られるのでは感じる。
キリアンのフローラルにはあまりローズが見つからない。圧倒的にホワイトフローラルが多い。そしてキリアンのローズの香りといえば、リエゾン ダンジェルーズ(2007年)が思い浮かぶ。
でも、リエゾン ダンジェルーズのジャーミーなローズをもってしても、リエゾンで繰り広げられるストーリーから見てみれば、一つのパーツでしかない。でも、あのローズを焔として、幾層にもくゆらせてみるとどんな香りになるのか。その着火材はウードだ。
そんなキリアンとカリス・ベッカーの会話を想像しながら、ローズウードのめくりめく香りの変化を味わってみるのも面白いなと思う。