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キリアン:フラワー オブ イモータリティ

KILIAN

FLOWER OF IMMORTALITY(2013年)

調香師:カリス・ベッカー

おすすめ度:★★★★☆

 

画像:公式HP

 

フラワー オブ イモータリティ。直訳すると不老不死の花。

元々はアジアン テイルズ コレクションとして発表され、現在はフレッシュ ファミリーとして青ボトルで統一されている。

 

「清流に浮かぶ桃の花」からインスピレーションを受けた香りに、不死の花、永遠の楽園、若さの泉というテーマを与えた作品。
古来より中国では、桃は邪気を祓い、不老長寿を与える植物・果実として親しまれているとのこと。
 
トップはフルーティ。
スプレーした瞬間、蜜がしっかりと詰まった、みずみずしいピーチの甘さに魅せられる。カシスの青さを含むことで、透き通るような滴がしたたるホワイトピーチの甘さが際立つオープニング。
 
ミドルはフルーティ・フローラル。
そのホワイトピーチのジューシーな甘さを広げながら、ピーチとフローラルの中間のようなネクタリンや、棘付きローズのツーンした跳ね感が、ホワイトピーチを桃色に染め上げていく。このピーチは、いわゆる桃の薄黄とピンクのコントラストではなく、緑や青、赤や白など、その色合いも複雑で鮮やかだ。
少しずつ、ピーチの熟した甘さを色濃くしていきながらも、フリージアの清々しさや、アイリスやバイオレットのきめ細やかなパウダリー感を添えることで、洗練された女性らしいピーチの香りへと導いていく。
 
ベースはフルーティ・パウダリー。
ピーチやネクタリンのジューシー甘さや、少し青みを残したフリージアローズを漂わせながら、ほんのりアーシーなアイリスが優しく包み込む。
ピーチの芯を思わせるキャロットシードの硬さを加えることで、ピーチの甘酸っぱさや青っぽいさは失われない。
やがて、トンカビーンのクリーミーな甘さで包み込むことで、白いベールをまとった静かなピーチを、霞のように静かに香らせたままドライダウンしていく。
 
持続時間は4時間程度。
終始、香りの中心にはピーチのジューシーな甘さが存在してる。そこにみずみずしさ、蕾のような青っぽさ、花の可愛らしさや美しさ、女性らしい繊細なパウダリー感、そして儚さ。これらがエッセンスのようにホワイトピーチを彩っている香り。
 
冬から春の端境期にとても映える香りではと思う。なぜなら桃の甘さをしっかり感じながらも、甘さが重くなく、どこか透き通っているため、乾燥した冷たい空気と見事に調和する。
春の訪れとともに景色が色付いていくように、若々しいピーチが冬に色めく。
 
最強のピーチ使い、カリス・ベッカー。
フォービドゥン ゲームズ(2012年)で魅せた、みずみずしくも甘い禁断の果実としてのピーチ。
プレイング ウィズ ザ デビル(2013年)の完熟しそうでしない、墜ちてしまいそうなピーチの魔力。
そして、フラワー オブ イモータリティの熟すことのないピーチの魅力。
同じピーチの香りでも、香りのファミリーはナーコティック、セラー、フレッシュと異なっているのが興味深い。
 
そう、フラワー オブ イモータリティは、熟さないピーチのなかに初々しい花を咲かせ、さらに蜃気楼のように霞ませることで永遠という物語を託した、無垢のピーチの香り。