フレグランスを選ぶ時、あたりまえだけどかなり吟味する。
予算も使用する場面も置くスペースも有限だから、その場の勢いで決めることはできるかぎり避けたい(避けられない時も多々あり)。
香りの完成度はどうか、似たような香りを持っていないか、肌に乗せた時の香り方はどうか、どんなシーンで使用するのか。さらに、多少は似合う似合わないも考慮しつつ、よし!と決意する。
にもかかわらず、レビューを書き上げたことで完結してしまい、その後出番が滅多にない香りも少なくない。そうやって新陳代謝を繰り返すことで、次の香りに鼻が向かうと正当化しながら.....。
2022年も多くのフレグランスに出会った。傑作もそれほどでもなかった作品も、新作も往年の名作もあった。
その中で、レギュラーとして新たにメンバー入りした香りを5本選んでみた。
※2021年のメンバー入りした香りはこちら。
ダークロード(キリアン)
バック トゥ ブラック(キリアン)
2021年がルイ・ヴィトンに熱中した一年だとしたら、2022年はキリアンにどっぷりはまった一年だったと感じている。
元々キリアンの香りはいくつか持っていたものの、一気に熱を入れ始めたきっかけがあった。
それは、2月末をもってキリアンとフレデリック・マル(ともにエスティローダー)が日本撤退となり、他の代理店に移管される際に、いくつかの香りは日本で取り扱いがなくなるとの情報が流れたこと。
当時、このダークロードとバックトゥブラックは取り扱いがなくなる有力候補だった。ところがバックトゥブラックはすでにボトルは完売しており、泣く泣くダークロードのみを入手し、キリアンは卒業することに決めたはずだった。
今朝はダークロード。
— ★キャプテンD★ (@captain_do_ra_) 2022年2月8日
これはキリアンのなかでもっとも最近購入した香りであり、私にとってはこの作品でキリアンを卒業する。
男らしいベチバーレザーの香り。随所に香り立つスパイスやアロマティックなジャスミンが、色気という華を添える。 pic.twitter.com/JPgd0R34ty
ところがダークロードは相当奥深い香りだった。ダークロードの煙い香りに包まれながら、その香りとストーリーを読み解いてみると、いくつもの「?」が浮かんでくる。結果として、ダークロードについてあれこれ想像を膨らませているうちに、他の香りにも連鎖していき、今まで気が付かなかったキリアンの世界観にどっぷりはまっていくことになった。
そして、自称卒業から半年以上が経過し、ようやくバックトゥブラックも手に入れることができた。
バックトゥブラックはメンズフレグランスの定番、煙草と蜂蜜の香り。
葉巻を思わせる煙草の香ばしさと、酒を感じさせる蜂蜜のまろやかな甘さ。それらがパーンと響き渡るのではなく、複雑でどこか古典的。ブラックファントムほどの色気はなく、ストレートトゥヘブンほどウッディではない。バランスの良い、男性の香り。今後、間違いなく出番の多いメンバーになるのではと感じている。
ちなみに2本とも、香りのファミリーは「スモーク」であり、日本での取り扱いはこの2本のみである。
コローニュ(キリアン)
2022年に発売されたキリアンの最新作「コローニュ」。最初にコローニュをかいだ時、正直あまりピンと来なかった。
いかにもコロンらしいシトラスやハーバルを主体とした香りから、弾けることなく、おとなしい。軽くすっきりしているというよりも、少し湿った重甘さがある。
それもそのはず、このコローニュは新しいコロンの解釈であり、テーマは「盾」。
いわゆるフレグランスは多くは、爽やかな気分やポジティブな気持ちにさせたり、格好良く決めたり、ラグジュアリーに着飾ったりなど「武器」を目的としている。武器とは別に、癒しや安らぎを求める香りもある。
それでも、過去に「盾」を目的とした香りはなかったのかもしれない。
そして、そういう目的でこのコローニュを使ってみると、確かに守られている感がある。
例えば、重要な商談があるとか、苦手な人と会うとか、歯を食いしばって乗り越えなければいけない場面の時、今年は決まってこのコローニュを使ったみた。コローニュの香りはあまり拡散せずに、肌に留まり、ふとした瞬間にフワッと香る。この香りを感じるたびに、今日は盾を着込んでいるから大丈夫だと思う機会が度々あった。
文句なしのレギュラー入りだと思う。
ミュージック フォー ア ホワイル(フレデリック・マル)
先のキリアンと同様、フレデリックマルも複数の香りが取り扱いがなくなるとの情報が飛び交い、真っ先に入手した香りが、このミュージックフォーアホワイルだった。
ミュージックフォーアホワイルは、まるで音楽に浸るように、香りの楽しさを肌で感じ、時おりフレグランスが持つアートの世界に酔いしれる香り。
何が楽しいかといえば、香りのパーツを一つひとつ見ると、どの香りも自由奔放にそれぞれの個性を奏でている。カラフルなパイナップルとラベンダーを軸に、シトラスやアロマティック、ウッディやスモーキーなど、どの香りもはっきり主張してくる。
さらには、色とりどりな色彩や静かなモノトーン、ワクワクするような陽気や落ち着き払った佇まい、新しさや懐かしさ。
混沌としているのに、
それらが一つの作品としてガチッとまとめられている。まるでアートのように。
アートを前に、あれこれ知識で補ったり、解析するなどナンセンスであり、身を委ねればいい。
フレグランスとはファッションであり、アートであることを教えてくれ、何も考えずに、シンプルに着てみればいいのではと教えてくれる香り。
ハルマッタン(エラケイ)
冬の時期にもっとも使用した香り。
2022年のサロンドパルファンで限定販売されていた香りで、初見で一鼻惚れした。琴線に触れる何かがあり、現在、それを解析している。
その全体像はバーチにも似た乾いたウッディに、男らしいアロマティックを絡めることで、レザーのように装った香り。ほんのりフルーティな甘さやフレッシュなハーバルの風が舞い上がる。
ハルマッタンのコンセプトは「刻々と変化する雄大な風」。それは、アフリカの広大な大地で旅を続け、境界線にとらわれずに航海を求める人類を導いていくように。
一つの場所にとどまり、足場を固めるため、耕し続けていくことも人生であるのならば、そういう一切をを捨て去り、新しい一歩を踏み出すのも人生。そして自分自身、潜在的に後者に憧れているのかもしれない。
そんなことを夢想しながら、新たにメンバー入りしたハルマッタンの風に包まれる。
ルールブルー パルファム
新しい香りを知れば知るほど、クラシカルな香りのレベルの高さと歴史の深さに心がときめく。それは帰巣本能なのかもしれない。
フレグランスを巡る旅も、水平に嗜好を広げていく時期と、垂直にのめり込んでいく時期が交互に訪れる。それぞれ、感動の方向性は真逆であったとしても、その本質は同質ではと感じている。
私にとってルールブルーは究極のアイリスの香りであり、叙景詩フレグランスの頂のような存在で、ずっと迎え入れたかった1本。
そして2022年、ようやく迎え入れることができた。まだメンバー入りはしておらず、開封すらしていない。
それでも個人的にはゲランとシャネルのパルファムは別格だと感じている。
2023年は節目の年。新しい香りに心躍らせつつも、羅針盤とする香りはパルファムにしよう。
ぶれない自分でいたいと心固める、2022年師走。