LOUIS VUITTON
SPELL ON YOU(2021年)
調香師:ジャック・キャヴァリエ
おすすめ度:★★★★☆
画像:公式HP
スペルオンユーは、ローズデヴァン(2016年)、アトラップレーヴ(2018年)に続く、ヴィトンフレグランスの新しいアイコン。
それは、あなたに魔法をかける香り。
魔法はかかるのか。
トップはローズ・グリーン。
スプレーした瞬間、ヴィトンが誇る唯一無二のグラース産co2抽出ローズが、惜しげもなくその美しい花をフワッと咲かせる。いつかいでも幸せに浸れる香り。
そこにバイオレットやグリーンが、空気をピンク色に染め上げていくローズを、よりみずみずしく、よりカラフルに彩らせながら、ローズの輪郭をはっきりさせていくようなオーラを放っていく。
ミドルはパウダリー・ローズ。
ローズとバイオレットのパウダリー感が一体になりながら、女性らしいエレガントな印象を強めていく。
そして、奥からジャスミンの官能的な香りが、ローズの華やかな印象に厚みを持たせていく。
それらフローラルの広がりを、フィレンツェ産アイリスパリダがまるで白いシルクのベールを、一枚ずつ繊細に重ねていくイメージ。
ベースはパウダリー・ムスキー。
ウエディングドレスのベールに包まれたローズに、そっとエジプト産アカシアを添えることで、ホワイトピーチのようなピンク味を帯びてくる。心にくい演出だ。
そんなピーチ色のアイリスローズは、ほんのりムスクやウッディの白みを加え、静かに香らせながらドライダウンしていく。
トップの鮮やかなローズをば、エレガントなパウダリーローズ、少しフルーティなアイリスローズのシングルノートのような香りで、4~5時間持続する。
春の気配を感じながら使いたくなる香り。
軽やかでポジティブ、繊細で洗練されている。何か良いことがあるのかもという予感に満ちている。なによりも上品なエレガント感が溢れてくる。
最初、スペルオンユーをかいだ時、まったく魔法にかからなかった。
フレグランスとしての完成度は、同じグラースローズを使用したローズデヴァンに遠く及ばない。シンプル過ぎる、作品として華がない、地味ではないかと。
ところがどうだろう。
例えば、グラースローズ本来の輝きはローズデヴァンにも優っているのでは。
シンプルなキャンパスに乗せられているからこそ、ローズの素顔の美しさが際立つ。
そして、そのキャンパス生地はN°19でも使われたアイリスパリダ。ローズの輝きをしっかり引き出しながらも、エレガントに演出している。
最高のフレグランスを探す旅路の未だ途上。完成度の高い香りと出会うと心が弾む。
それでも、そういうキャラの立った香りばかり揃えていくことが、旅のゴールではないのではと思えてくる。
どんなシーンでも対応できる柔軟性の高い香り。
どれだけ使い込んでも飽きることのない、素材の確かさと深み。
むしろ使う度に新たな発見がある。
スペルオンユーはそんな存在で、イマジナシオンと重なる。
もしかすると、こういう香りこそ求めていたのかもしれないと感じてしまう、パラダイムシフトのような香り。
私はスペルオンユーの魔法はかかってしまったようだ。あなたはどうだろうか。