DIOR
LUCKY(2018年)
調香師:フランソワ・デュマシー
おすすめ度:★★★★☆

画像:公式HP
もしも「幸福」に香りがあったとしたら。
かつてクリスチャン・ディオール本人は、ショーの直前にモデルのドレスの裾に一輪のミュゲ(スズラン)を縫い込み、ラッキーチャーム(お守り)としていたというエピソード。
そしてフランスでは、5月1日はミュゲの日とされ、愛する人やお世話になっている人に幸運が訪れてほしいとの願いを込めて、ミュゲの花を贈る習慣がある。
ラッキーは、白い花々とみずみずしいグリーンを束ねた豊かなブーケの中に巧みに秘められたミュゲのポートレートであり、さらにディオールのエピソードを具体化させた真のラッキー チャームの香りとのこと。
このラッキーに込められたミュゲのポートレート、そしてラッキーチャームとはどんな香りなのだろうか。
トップはフローラル・グリーン。
スプレーした瞬間、グリーンアップルからジューシー甘さを抜いたようなみずみずしいグリーン、そして花束に顔を近づけたときのような強いフローラル感がパッと広がる。
まるで春らしい朝露をまとうミュゲが、静かに凛と咲き誇ったようなフレッシュグリーンのオープニング。
ミドルはフローラル・オゾン。
でもトップのフレッシュグリーンミュゲは、グリーンが落ち着いてくるにつれ、フローラル部分はミュゲではないことに気づく。
ジャスミンやチュベローズといった生花感溢れるホワイトフローラルで構成され、そこにみずみずしいというよりも、水そのものといったオゾンと合わせることで、透き通ったミュゲの美しいシルエットが創り出されている。
ベースはムスク。
ベースに該当するような香りはほとんどなく、ミドルのミュゲの透明感をそのまま引っ張っているようなイメージ。リネンを思わせる硬めのムスクをほんの少し添えることで、オゾン特有の暗さや青さを目立たなくさせ、ピュアなミュゲの印象を保ったままドライダウンしていく。
持続時間は3~4時間程度。
フレッシュなグリーンと、生花らしさも感じながらも透き通るようなミュゲとの組み合わせは3〜5月にかけて特に映える。また透明度や清潔感もあり、嫌われることなく、使うシーンも選ばない香りだと思う。
ディオールのミュゲといえば「ディオリッシモ(1956年)」があり、ミュゲの香り=ディオリッシモといっても言い過ぎではない。
でもディオリッシモは、オイルの採れないミュゲの香りを再現するため、イランイランやジャスミンなどを駆使しているため、美しさと同時にフローラルが持つ雑味やマニマリックなトーンも併せ持つ。
このラッキーが素晴らしいのは、ミュゲが持つみずみずしくも透明感のある美しさ、軽やかさ、ピュア感にフォーカスするために、フローラルの雑味や深みを可能な限り取り除くことで、ラッキーチャームの香りとして仕上げられている点だと思う。
嫌われることのないシンプルな構成。特にみずみずしさや透明感を際立たせるため、オゾンを多く配置し(フランソワ・デュマシーはオゾンの達人だと考えている)、香りが重く沈まないようにあえてベースを抜く、引き算の調香。
そのためラッキーは、ディオールフレグランスの最高峰ラインとしては、シンプル過ぎる、深みや個性が足りないと感じるかもしれない。
でもラッキーは、かつてディオールが裾にミュゲをそっと縫い込んだような、目に見えない白色のお守り。
そして、これほど大切な人へのプレゼントに適した香りはないと思う。なぜなら幸福に包まれてほしいという願いを託した香りだから。



