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キリアン:ローリング イン ラブ

KILIAN

ROLLING IN LOVE(2019年)

調香師:パスカル・ガウリン

おすすめ度:★★★☆☆
 

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ローリングインラブは、スキンフレグランスという装いの、嗅覚と想像力を刺激する香り。他のキリアンの香りが華やかなドレスや鮮やかなリップ、スタイリッシュなスーツだとすれば、このローリングインラブはまるで下着のようで、明らかに異色な存在。そんな異色な世界観を真っ赤なボトルに託しているのではと感じている。
 
ローリングインラブは、ムスク・ド・ポー(肌のムスク)で肌に潜りこんでいく香りとしている。それは踏み入れたら抜け出せない二人だけのコクーンであり、魅了される愛に昂揚する感覚を捉えた香り。ダイレクトでシンプルに、ただひとつの感情にフォーカスしたモノクロマティック(単色使い)な世界。単色でありながらも単調ではない、官能的で甘く、奥行きのある香りを描き出したとしている。

 

では官能的な肌のムスクとはどんな香りなのだろうか。
トップはフルーティ・アンブレット。
スプレーすると甘酸っぱいチェリーに包まれた、アーモンドの香ばしい硬さを、アンブレッドが霧のように真っ白い靄(もや)をかけていくようなオープニング。フレッシュな甘さ、ミルキーな白さ、それでいて軽く、コクのない、すっきりしたアーモンドミルクの香り。ムスクでは出せないだろう、この白っぽさにハッとしてしまう。
 
ミドルはアーモンド・パウダリー。
そんなフレッシュなアーモンドミルクのフレッシュ部分には、フリージアの硬いフローラルが絡まっていく。このフリージアの青くささを絡めたアーモンドはまるで蕾のようで、息を飲むようないやらしさがあり、どこか背徳的だ。
逆にミルク部分は、アイリスのキメの細かいパウダリーが上品に包んでいくようで、どこまでもなめらかに仕立てていく。
そこにバニラの甘さがうっすらと漂うことで、ミルク感が増していき、気持ちも落ち着きを取り戻していく。
 
ベースはムスキー・バニラ。
ところがミルクの奥から、チュベローズの強い酸味と艶やかな甘さがツーンと立ってくる。さらにチュベローズのスパイシーやウッディな一面も嗅覚を刺激してくるものだから、急に落ち着かなくなる。きっと、真っ白いミルクに溶け込んだ中から、官能的なフローラルの艶っぽい香りだけが見え隠れするから、焦るのだと思う。
そして、気が付くとチュベローズの誘惑は消えて、バニラやトンカのビーンズ感のある甘さやクリーミーなムスクがまるで何事もなかったように、そのまま肌に溶け込んでいく。
 
可愛らしいフレッシュなアーモンドミルクが30分、そこからミルクのなかに潜むフローラルな香りが2時間くらい、そこからミルクのようなバニラムスクが5~6時間持続する。
 
あまり季節を問わない香り。というのも実際に肌に乗せていると、香り立つのは最初の30分くらいで、あとは肌に纏わるように静かに香っていく。その時々でムスクが立ったり、フローラルの酸味が立ったり、甘さが立ったりと、香りが掴みづらいと思う。
 
ローリングインラブは香りだけみれば、キリアンの他の作品と異なものとして映るけれど、その本質は実にキリアンらしい世界観に溢れている。
ローリングインラブは肌のムスク、つまりはスキンフレグランスのため、まるで体臭のように肌に馴染む香りだと考えてしまう。
 
違うのだ。キリアンがイメージしたスキンフレグランスとは、肌に溶け込むように香るだけでなく、それだけ肌に密接した相手がどのように感じるかを意識した香り。お互いの肌が密着し、それぞれの肌の匂いを感じる。それこそ、踏み入れたら抜け出せない二人だけの世界。行為は単色でも、お互いの感情は単調ではなく、ぐるぐる転がる。そんな感情があらわになるように肌の匂いも変化していく。
 
ローリングインラブは下着のような香り。肌に密着し、相手に、、、。