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フレデリック・マル:ダン テ ブラ

FREDERIC MALLE

DANS TES BRAS(2008年)

調香師:モーリス・ルーセル

おすすめ度:★★★☆☆

 

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画像:公式HP

 

ムスクラバジュール(2000年)で成功を収めたフレデリック・マルとモーリス・ルーセルが次に創り出し香り。ダンテブラは「あなたの腕の中で」の意味で、つまりそれは抱擁の香りを意味している。
約束に満ちた親密な瞬間と、相互依存の習慣的な感覚を捉えた作品。
 
ムスクラバジュールで表現したストレートで野生味を帯びた温もり。それと対極に位置するような、安らぎに満ちた肌の匂いと、その香りに依存してしまう心地良さ。さらには、迫ってくるようなキャラクターの強さはなく、かなり玄人向けなウッディパウダリーの香りだと思う。
 

トップはバイオレット・ムスキー。

スプレーすると、パウダリーなバイオレットを柔らかいムスクで包み込んだ香り。徐々にパインツリーの硬いアロマティックなウッディが漂い、多くの日本人はお風呂上りのような香りと感じるのでは、と思うオープニング。
 
ミドルはパウダリー・ウッディ。
次第にムスクやバイオレットの上に、ヘリオトロープのクリーミーな甘さがフワッと香ってくる。ウッディに包まれたことでキンキンしていないバイオレットのパウダリー感が、このヘリオトロープとムスクの白い美しさを際立たせている。
時折、アクセントのように香り立つジャスミンの酸味がとてもエロティックな味を添えている。
 
ベースはウッディ・ムスキー。
バイオレットのパウダリー部分は、ヘリオトロープと重なり、ベビーパウダーのような白いパウダーとしてまとまっていく。バイオレットのグリーンはカシュメランのウッディムスク調と調和し、なめらかになっていく。
やがて、今度はパウダリーなムスクに包まれたカシュメランが白いパウダーを担い、奥からサンダルウッドやパチョリのウッディが、カシュメランの白さを立たせながらドライダウンしていく。
 
常にパウダリーとフワッとした白さを主旋律とした、シングルノートに近い香り立ち。前半2時間はフワッとした白さが軽やか。そこからそのパウダリーが白さを帯ながら、全体では6時間以上持続する。
 
ダンテブラはマル版のスキンフレグランス。肌に寄り添い、纏った自身と、その相手を揺り動かす。
 
そしてテーマは抱擁の香り。なるほどと思う。
スプレーした瞬間はまるでシャワーを浴びた直後の清潔な香りに包まれる。そんな清潔なパウダリーを香らせつつ、高まる鼓動と体温と呼応するかのように、ムスクに包まれた官能的な甘いフローラルが広がっていく。
 
でも、このフワッと広がっていくムスクは包み込むだけでなく、自身と相手の気持ちを写しているかのように振動する。
過剰投入されたカシュメランのウッディムスク調が、ムスクに影を与えることで、ムスクはくっきりと浮かび上がり、動いているように錯覚する。さらにこのカシュメランにはピリッとしたスパイシー要素もあり、これがなめらかなサンダルウッドやムスクと合わさることで、湿った肌から漂う塩味のようにも感じられる。この部分がとても艶めかしい。
そしてこの香りに包まれた二人はこう思うのだ。もう離れられない、あなたなしでは生きられないと。
 
ダンテブラはマルの哲学が凝縮された素晴らしい香り。それでもこの香りはニッチすぎて、使用シーンがかなり限定されるのではとも思う。
 
スキンフレグランスだけあり、香りは拡散しない。でも、例えばガイアック10のように自分の心にだけ働きかけるでもなく、相手を意識している分、どちらかというとローリングインラブに近い立ち位置だと思う。ところが、二人の情熱を掻き立てるには、ダンテブラは静かすぎる。
どんなシチュエーションで使えば良いか考えさせる点が、この香りを難解にしている。
 
動のムスクラバジュールと、静のダンテブラ。
同じ調香師が創り出した、全く異なる世界観。