HERMES
TWILLY D'HERMES(2017年)
調香師:クリスティーヌ・ナジェル
おすすめ度:★★★★☆
画像出典:公式HP
エルメスの初代専属調香師ジャン=クロード・エレナの後継者として選べれたクリスーティーヌ・ナジェルは、ギャロップ、ツイリードゥエルメスと、立て続けに度肝を抜くような傑作を発表している。
このツイリードゥエルメスをかいだときの衝撃は忘れられない。
実際のチュベローズやオレンジフラワーのアブソリュートにあるようなエグみ、生っぽさをあえて隠すことなく、むしろジンジャーを加えることで、ナチュラルな灰汁をそのまま表現したような香りに驚かされた。
通常、フレグランスでのチュベローズの表現は、よりフローラルの妖艶さやコクを引き立たせ、スパイシーやフルーティでミステリアスに着飾ったような、とても女性らしい香りに灰汁抜き処理される。それを逆手に取ったような、オリジナリティ溢れる香り。
トップはスパイシー・シトラス。
スプレーすると、まるでおろしたて生ジンジャーのような辛みと、フレッシュなオレンジの香り。かなりスパイシーを際立たせたオープニング。名作ニュイマグネティック同様の鋭いジンジャーで、フルーティを効かせたニュイマグネティックよりもジンジャーが生感が強く、肌に乗せるのが躊躇われる。でも実際に肌に合わせると、オレンジの甘さが立つためか、それほど辛みはフレッシュに感じられる。
ミドルはフローラルー・スパイシー。
トップが落ち着いてくると、一気にフローラル感が増していく。とはいえ、ジンジャーの土っぽい、アーシーな香りもしっかり残されているため、アブソリュートのチュベローズに近いイメージ。そこからさらにオレンジフラワーの芋のような臭みも加わり、いわゆる妖艶なチュベローズとは異なり、むしろナチュラルな素材感が強く、その忠実さが逆に大胆で新鮮に映る。
実際に肌に乗せてみると、オレンジの残香やオレンジフラワーの明るさが立ち、次にチュベローズにパッと切り替わていくような、ホワイトフローラル2段構造の香りに感じる。逆にジンジャーの土っぽさが上手くナチュラル感を与えているようにも感じる。
ベースはウッディ。
やわらかいジャスミンやヘリオトロープが香ることで、ようやくフレグランスらしいチュベローズの雰囲気になる。奥からは落ち着いたサンダルウッドに、ほんのりバニラの甘さを添え、ジンジャーの土っぽさは最後まで残したままドライダウンしていく。
シトラスやスパイシーを効かせたフレッシュなチュベローズやオレンジフラワーの香りは2時間くらい、そこからナチュラル感が感じられる、なめらかなフローラルウッディは5時間近く持続する。
随所に温かさが感じられるホワイトフローラルブーケの香りで、秋から冬にかけて似合うのではと感じる。
ツイリードゥエルメスについて、クリス―ティ・ナジェルはこう述べている。
女性たちがその若さの最中でいきいきと生を謳歌する、そんなイメージを思い浮かべながら、私は《ツイリー ドゥ エルメス》をつくりました。自由で、大胆で、型にはまらない彼女たち。あえて世の流れに逆らうことを楽しみ、自分のリズムを大切にしながらまったく新しいテンポを創り出すのです。
ツイリードゥエルメスは、まさしく「自由」「大胆」「型にはまらない」「世の流れに逆らう」を地で行ったような野心作で、今までになかったチュベローズの新しい表現だと思う。
ジャン=クロード・エレナが織りなす、淡く水彩画のような香りに対して、まるで抽象画のような印象の作品たち。
一方、クリスーティーヌ・ナジェルは、嗅覚を鷲掴みしてくるように、キャラクターが迫ってくるため、一度かいだら忘れられない。キャラが立つ分、好き嫌いははっきり分かれてしまう。調香師の天才性が感じられる香り。
エルメスに限らず、どの専属調香師も、初期の作品は個性的な香りが多い。そのうち、そのブランドのイメージや顧客に寄り添うためか、鋭い個性が丸くなっていくのは仕方がないとはいえ、いちフレグランス愛好家としては、ツイリードゥエルメスのような、個性溢れる香りを待ち望んでいる。