KILIAN
GOOD GIRL GONE BAD EXTREME(2017年)
調香師:アルベルト・モリヤス
おすすめ度:★★★★★
画像:公式HP
キリアンの代表作グッドガール ゴーンバッド(2012年、以下GGGB)。そのエクストリーム(過激)バージョン。
こういうエクストリームやフォルテなどの派生作品は、オリジナルの世界観を壊してしまったり、香りのレベルが落ちていたり、あまり変わっていなかったりと、残念ながら成功例はそれほど多くないと感じている。
でも、このGGGBエクストリームは、オリジナルのリミッターを外した形で、あの世界観をよりパワーアップさせた、エクストリームの名に相応しい傑作に仕上げられている。もしオリジナルが好きであれば、ぜひとも試してほしい香りだと思う。
それでは、どのようにリミッターを外していったのか見ていきたい。
トップはフローラル・フルーティ。
スプレーした瞬間、オリジナルをなぞるような、やわらかいオスマンサスの煌めき。そこにミルクの白い甘さも軽やかに香り立つことで、オスマンサスの輪郭がより鮮やかに感じられる。
さらにジャスミンサンバックのみずみずしさや、ローズの明るい酸味も加わり、オリジナルよりもフローラル感の強いオープニング。
ミドルはフローラル・ミルク。
オスマンサスを香らせながら、スパイシーを含んだ華やかなチュベローズと、フレッシュなローズが絡み合う。それらをミルキーな白い甘さが包んでいるような香り。
時間とともにチュベローズはミルキーな甘さと調和することで、さらに官能感を増していく。でも全体としては、軽やかで若々しいミルキーなフローラルフルーティの香り。
一方、奥の方から香ってくるオレンジフラワー、ナルシス、ドライアンバー、セダーウッドがどことなくスモーキーでカサカサしていて、重くて暗い。その明るさと暗さの2層構造が2時間くらい持続する。
ベースはフローラル・ミルク。
オリジナルでは時間の経過とともに、重く暗いバッドガール部分が強くなり、それらをやわらかいムスクが白くまとめ上げていった。
それに対し、このエクストリームではチュベローズを中心に、女性らしいローズやジャスミン、ミルクのコク甘さ、スモーキーなナルシス、ウッディアンバーの暗さが呑み込まれていくように、どんどん妖艶さを強めていく。
鼻先ではフローラルのフレッシュな酸味を残しながら、中心のフローラルは重く暗く、妖しくも官能的なフローラルの香り。
次第にミルキーな甘さが強くなり、そこにムスクの白さを加えることで、ウッディ暗さに沈むことなく、どこか退廃的な雰囲気が感じられる。
最後はドライアンバーが、フローラルミルクの甘酸っぱさを立たせながらドライダウンしていく。
出だしは若々しいフローラルフルーティの香り。最後までそのフルーティ感を感じたまま、チュベローズを中心としたフローラルが妖しい甘さを熟成させるように、5~6時間持続する。
オリジナルと変わらず、あまり季節を問わない香り。それでも秋にもっとも似合う。さらにオリジナルよりも、夜でも映えるのではと感じる。
GGGBは、グッドガール部分とゴーンバッド部分の狭間にオスマンサスを置き、香りの流れに寄り添わすように、軽いムスクから重いムスクで包み込むことで、妖しくも退廃的な世界観を見事に表現した作品だと思う。
一方、エクストリームではオリジナルのピーチやココナッツを外すことで、グッドガール部分がそもそも大人びている。
さらに香りの中心だったムスクも外し、チュベローズとミルクに変えている。
前半ではオスマンサスやみずみずしいジャスミン、軽やかなローズにミルクを添えることで、可愛らしいもどこか清純なフローラルに仕立てている。
後半は、チュベローズという渦に、ミルクのコク甘さ、フローラルの重さ、ウッディやアンバーの暗さが呑み込まれていくことで、この香りの妖しさがむき出しの状態になったような香り。中毒性もパワーアップされている。まさにエクストリーム。
オリジナルは淑女の装いを脱ぎ捨てて、どんどん退廃的な側面を露にしていく物語としている。主語は淑女だ。
エクストリームでは、ムスクのベールが外されることで、妖艶さが際立ち、退廃的な悪女が主役になっている。
それでも彼女からは時折、かつて淑女だった頃の匂いや仕草が見え隠れする。
まるで隠し切れずに、溢れ出てしまうように。
淑女から始まるオリジナルに対して、悪女から始まるエクストリーム。その証左を示すのか、かつてエクストリームのボトルの色は黒だった。
Even BAD GIRL used to be GOOD...
もしかすると彼女は悪女を演じているだけなのかもしれない。オリジナルと同様に魅せられる香りだと思う。
GGGBエクストリームは、オリジナルのエクストリームバージョンでありながらも、新しい別のストーリーのようにも思えてくる。