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2026-06-01から1ヶ月間の記事一覧

小説「渚の処方箋」2話⑤

​第五回:その泥を吸い上げて、気高く咲き誇れ ​ 「『泥の徳』……。最高の嫌がらせね、志乃さん」 ​Keikoは、志乃から渡されたガラスの小瓶を、愛おしそうに指先で包み込んだ。 もう、その指は震えていなかった。 都会的な無菌室の香りは、彼女自身の手によっ…

小説「渚の処方箋」2話④

第四回:爪の中の窯元 ​アトリエのクリーンな空気の中で、その黒く染まった紙片だけが、異物のように生々しく存在していた。 ​Keikoは震える指先で、志乃の手からムエットを受け取った。その短い爪の隙間を、彼女はまだ無意識に、肉に食い込むほど強く擦り合…

小説「渚の処方箋」2話③

第三回:美と醜の調合 ​アトリエの空気が、一段と張り詰めた。 ​「わかりました。調合を始めましょう。……あなたが本当に求めている、最も獰猛な香りの調合を」 ​志乃はそう言うと、迷いのない足取りでデスクを離れ、棚の前に立つと、三十本弱のガラス小瓶を…

小説「渚の処方箋」2話②

第二回:洗練の解体 ​「その消えない泥の匂いに心当たりがありますね?」 ​志乃の言葉は、アトリエの無機質な活性炭フィルターの駆動音に混ざり、硬質に響いた。 ​椅子の上で、Keikoの身体が一瞬、微かに強張ったように見えた。しかし、彼女はすぐにその完璧…

小説「渚の処方箋」2話①

​第一回:無菌室のデザイナー ​六月の隅田川は、早くも夏の匂いを孕んでいる。川面から吹き上がる風には、湿った川床の匂いと、アスファルトが熱せられる特有の埃っぽさが混ざり合っていた。 ​蔵前の、古びた雑居ビルの急な階段を上る。重い鉄の扉を開けた瞬…