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キリアン:ローゼス オン アイス

KILIAN

ROSES ON ICE(2020年)

調香師:フランク・フォルクル

おすすめ度:★★★☆☆  

 

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画像出典:公式HP

 

2020年秋に登場したキリアンの新コレクション「ザ リカーズ」。ローゼスオンアイスはエンジェルズシェアと同時発売された。

 

これは多くのフレグランスに言えることだが、特にこのローゼス オン アイスに限っては、ムエットで試すのみではなく、実際に肌に乗せて、その香り方を確認してほしい。というのも、私もムエットだけだったら、おそらく買うことはなかったから。

肌に乗せなかったら、よりキリアンの出生と重なり、季節的にもすぐに使うことができるエンジェルズ シェア(2020年)を選んでいたと思う。
 
8代にも渡るコニャック メゾンのヘネシー家で生を受けたキリアンにとって、このザ リカーズは、よりパーソナルなコレクションと位置付けている。
ローゼス オン アイスは、ローズとキューカンバーで蒸留されたヘンドリック ジンそのものの香り。
同時発売されたエンジェルズ シェアは、醸造の熟成の過程で樽から自然と蒸発するコニャックのことを、ヘネシー家では「エンジェルズ シェア(天使の分け前)」と呼ぶらしく、それをイメージした香り。
 
そして、ザ リカーズはのボトルは、まるでロックグラスにヘンドリックジンやコニャックを注いだようなデザインで、さらにムエットまでもがコースターをイメージしている。まるでバーカウンターのような空間で、酒をテイスティングするように香りを吟味する、この演出もとてもキリアンらしいと感じる。
最初、ローゼス オン アイスをムエットでチェックした時、第一印象はキュウリが強く、キュウリの香りが得意ではなかったため、正直、あまりピンとこなかった。
 
ところが実際に肌に乗せてみると、香りの印象がだいぶ変わってくる。
 
トップはアロマティック・グリーン。
 
スプレーすると、少しモタッとした甘さのあるキュウリに、まるでモヒートを思わせるようなジュニパーベリーのピリッとしたグリーン感を加え、さらにアクセントととしてライムの苦みを足したようなオープニング。キュウリのみずみずしさを活かし、青臭さをグリーンや苦みで目立たなくした香り。
 
ミドルはアクアティック・フローラル。
鼻先ではトップからのアロマティックなグリーンをしっかり残しつつ、奥からはアクアティックな瓜系の香りが厚く香ってくる。次第にそのアクアティック感は、暗いオゾンのような香りとなって沈んでいき、逆にローズとムスクを合わせた淡いピンク色の香りが前に出てくる。まだ上の方にはアロマティックグリーンが残っているため、キリッと冷涼感のあるアクアティックなローズムスクの香りに。
 
ベースはムスキー・ウッディ。
やがて冷涼感が収まってくると、アクアティックで漬けたようなローズムスクから、サンダルウッドのウッディ感が加わり、最後は液色のような薄グリーンの香りのままドライダウンしていく。
 
持続時間はアクアティックなローズまでが2時間強、グリーンを効かせたウッディムスクが5時間程度持続する。
終始ジンのような苦みとみずみずしさを漂わせた、冷たくクールなローズムスクの香り。夏にぴったりの香りだと感じる。
 
それにしてもなぜムエットと肌とでここまで香り立ちが違ってくるのだろうか。
この香りの全体的な骨格は
①ジュニパーやキュウリの鋭いグリーンの香り
②アクアティックやオゾンなど瓜っぽい籠った香り
③ピンクイメージのローズムスクの軽い香り
④ムスクやウッディのベース
で構成されている。
ムエットの場合、トップからミドルの変化は多少あるものの、①②③が重なるような平面的な香りに感じる。特に②の瓜っぽさが重く、暗く、嗜好が良くない。
ところが肌に乗せると、体温により香り立ちにメリハリが出てきて、特に②よりも③が上の方に立つことで、①ジンのような苦みの効いたグリーン、③②みずみずしいローズムスクの冷たく芳醇な香り、②④オゾンのような湿ったウッディとなる。
 
こういう香り方をしてくれると、冷涼感と水っぽさを合わせたような、今までにないクールに装ったローズの香りを楽しむことができる。どちらかといえば、オンタイム向きの香りだと思う。
逆に、肌に合わせてもローズが前に出てこない場合、モタッとした青臭いメンズのような香りが目立ってしまうため、瓜系が好きでなければあまりおすすめはできない。