LOUIS VUITTON
ON THE BEACH(2021年)
調香師:ジャック・キャヴァリエ
おすすめ度:★★★★★
(公式HPより)
私にとって、このオン ザ ビーチは最高のシトラス探しの旅の到達点の香り。そしてヴィトンでは初めて、日本産の素材(高知産柚子アブソリュート)が、それも主役として使用されており、明らかに日本のマーケットを意識した香りだと感じられる。
日本の柚子をしっかり香らせながら、そのテーマはアメリカ西海岸のビーチで、朝日に包まれ、独特の波のような心のうねりを感じながら、肌に触れる砂の優しい温かみを表現している点が、とても面白い。
そのコンセプトをそのまま表現したような美しいグラデーションのボトルをスプレーすると。
トップはシトラス。
スプレーした瞬間から、他のシトラスとはひと味違う、ほろ苦く、ワタのような甘さを持った柚子の香り。ヴィトンらしいシトロンを効かせたネロリが、その柚子の苦甘さを引き立てているような、柚子の香りを堪能できるオープニング。
ミドルはアロマティック・グリーン。
鼻先は柚子のほろ苦さをピンクペッパーでキャラクターを付けつつ、全体の骨格はローズマリーやタイムの硬質なマロマティックグリーンと、シトラスリッチなネロリのフローラル感が重ねることで、スプレーした瞬間の柚子をそのままスライドさせたような香り。
肌に乗せると、このネロリのフローラル感が増すため、さながら柚子フローラルに包まれたような香りに感じる。
そして、奥から時折香ってくるひのきの爽やかなハーバルウッディ感がとても心地良い。
このミドルにはサンド(砂)アコードが添えられている。春先に使った時はあまりその存在に気がつかなかったが、暑くなってくるとはっきり感じるようになった。柚子のほろ苦さとは別に、砂のようなざらざらした香りが感じられると、まるで白い砂浜にいるような感覚を楽しむことができる。
ベースはウッディ・スパイシー。
硬いアロマティックグリーン、ネロリやひのきの残香に、クローブのようなハーバルなスパイシーを添えることで、柚子、さらには砂のような面影を残していく。そして、ウッディムスクがその余韻を持続させたまま、ドライダウンしていく。
持続時間は、アロマティックな柚子フローラルが2時間程度、ひのきのような軽いウッディとムスクを合わせた柚子の香りは6時間以上持続する。
夏のビーチをイメージした香りであるものの、お決まりのマリンやオゾンやココナッツではなく、終始、柚子の爽快感、ほろ苦い甘さ、アロマティックやフローラルで表現しているいるため、春から夏の終わりまで活躍するのでは。
そして使えば使うほど、そのビーチ感が堪能できる香りだと感じる。
トップはフレッシュな朝日の爽快感や波しぶき、ミドルは太陽の眩しさと、肌や白い砂がジリジリ焦がされるような予熱、ベースは肌の甘さや砂の余韻。この1本で、日中のビーチの雰囲気を楽しむことができる。
ケチをつけるとすれば、ヴィトンのネロリの香り方。フワッと香るネロリではなくシトロンが鋭いネロリで、もしこの香りが硬質なアロマティックグリーンから飛び出してしまうと、柚子らしさが抑えられてしまうため、紙ではなく肌で試すことをおすすめしたい。
シトラスの香りは、トップの爽やかな印象付けとして使われるケースが多い。でもオン ザ ビーチは最初から最後まで、それも日本の柑橘の香りを味わえるフレグランス。そして柚子を使うことで、新しいシトラスの扉を開けたような香りが誕生した。