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ルイ・ヴィトン:イマジナシオン

LOUIS VUITTON

IMAGINATION(2021年)

調香師:ジャック・キヴァリエ

おすすめ度:★★★★★

 

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画像:公式HPより

 

イマジナシオンはヴィトンのメンズ・フレグランス コレクション7番目の香り。

2016年にウィメンズ コレクションが一挙に7作品が同時発表されたのに対し、メンズは5年遅れでようやく7作が揃った。


トップはシトラス・アンバー。
フレッシュなマンダリンやベルガモットと、アンバーグリスの磯の香り。アフターヌーンスイムの波飛沫のような青さに対して、イマジナシオンはベルガモットの酸味やネロリの明るさが加わることで、明るく、みずみずしく、そして透明感を感じるオープニング。

 

ミドルはスパイシー・アンバー。
シトラスのフレッシュ感は、ヴィトンらしい鋭いネロリで輝きを増しながら、一方で、ジンジャーの硬さが香り全体を引き締めつつも、アンバーで水っぽさを加えたような香り。そして奥からみずみずしいジャスミンやシナモンの甘さに囲まれた、上品なティーノートの存在感が増していく。

 

ベースはウッディ・アンバー。
フレッシュなジンジャーやシナモンの甘さを残しながら、燻したようなブラックティーの深みのある香り。爽やかなネロリの明るさ、アンバーグリスのみずみずしさが、このウッディに近いスモーキーなティーノートに彩りを与え、フレーバーのような紅茶の深みがある。最後はアンバーグリスの柔らかさが、スモーキーなティーを肌に吸い込ませていくようにドライダウンしていく。

 

おそらく、今までのヴィトンのフレグランスの中でもっとも淡い香りにも関わらず、実際に肌に乗せると、時間が経つにつれて、ティーの甘さと深みが肌になじんでいくように6時間くらい持続する。時折、フワッと香ってくる柔らかなティーの香りに気持ちが安らぐ。

 

そういえば、ヴィトンのフレグランススペシャリストの方からこんな話を聞いた。

ヴィトンのラボがあるフランスのグラースでは、海風が磯の匂いを連れて吹き上がってくるらしい。きっとジャックは、夏の晴れた午後、ラボで紅茶を楽しんでいる時に、このイマジナシオンの香りを思い浮かべたのではないかと。

 

フレッシュなシトラスやスパイシー、みずみずしいアンバーで、まるで水彩画のような淡く、そして液色ように美しいブルーイメージの香りに仕上げられている。

少し冷たさを感じる、静寂なブルー。熱で火照った肌を、冷たい海水で一気に冷やすと、肌は冷たくても身体の芯はまだ熱がこもっている、、、そんな肌そのものの香り。涼しげで、でも肌に寄り添ってくれるような温かみがあるため、春と秋は終日、夏の夕刻以降は特に似合うと思う。

 

ジャック・キャヴァリエのティーの代表作といえば、何といってもブルガリ プールオムだと思う。

そしてブルガリ プールオムと比較すると、このイマジナシオンの主役が浮かび上がってくる。それはアンバーグリスとブラックティーだ。


ジャック・ジャヴァリエは、イマジナシオンでまったく新しいアンバーを表現したとのこと。確かに、トップでは波が弾けるようなダイナミックさ、ミドルでは滴るようなみずみずしさ、ベースでは肌に寄り添うような安心感というように、最初から最後までアンバーを感じられる、アンバーが主役の香り。

そして独自方法で抽出されたスリランカ産ブラックティー。これは普段、紅茶を飲む習慣のない私でも分かるくらいに、素材の良さが伝わってくる。時間が経てば経つほど、ティーの深みや甘さが増していくからだ。

このティーとアンバーグリスと重なることで、渋く、暗い方向に進まずに、最後の最後までみずみずしさ、柔らかさを失わないティーの香りを楽しませてくれる。

イマジナシオンは、ジャック・キャヴァリエのティーの完成形ではないだろうか。

 

IMAGINATION=想像力。

イマジネーションの水彩画のような香りは、アンバーグリスとティーを骨格に、キャンパス全体に色を塗ることなく、多くの余白を残している。さらに爽やかさ、みずみずしさ、甘さ、辛さ、華やかさ、冷たさ、暖かみ、硬さ、柔らかさ、深みなどの様々な要素を点在させることで、次の描き手が手を加えられるように創られているのではと感じる。
このキャンパスに自分の好きな香りを重ね合わせ、どんな香りを創り出してみようか、、、そんな楽しみ方もできるのでは。