マイブームのアンバーの香り。
ここ数年、アンバー系の香りに魅せられている。
そんなお気に入りのアンバーの香りを7つ厳選してみた。
アンバーとは
アンバーとは「琥珀」の意味で、琥珀のように輝いている香りの通称で、ラブダナムやベンゾインなどの植物樹脂にバニラなどを加えた、オリエンタルに含まれる香りだと認識している。
このアンバーの香りには、スイートアンバー系とドライアンバー系に分かれると考えていて、スイートアンバーは先に述べた琥珀のような色味の甘い香り、ドライアンバーはアンバーに力強いウッディやスパイシーをミックスさせたお香のような香りで、このスイートアンバーとドライアンバーをミックスさせた香りも多い。
一方で、アンバーグリスとは「龍涎香(りゅうぜんこう)」と呼び、マッコウクジラの腸内に発生する結石が、海面に浮き上がり海岸まで流れ着く。この結石から抽出されたものが天然のアンバーグリスで、現在では商業捕鯨が禁止されているため、偶然に海岸で拾う以外に入手することができず、大変貴重な香料になっている。
アンバーグリスは磯のような塩味、マリンのような硬さ、ムスクのような動物臭さを合わせたような香りで、この香りがはっきりと感じ取れる香りはかなり少ないのではと思っている。
今回はアンバーグリス系、スイートアンバー系、ドライアンバー系に分けて、それぞれお気に入りの香りを選んでみた(番外編あり)。
アンバーグリス系
1.ルイ・ヴィトン:アフターヌーンスイム(2019年)
アフターヌーンスイムは、アンバーグリスがほぼそのまま感じられるような香り。
スプレーした瞬間、爽やかなマンダリンのみずみずしさ(このマンダリンもとても素晴らしい!)と、ピリッとした磯のようなアンバーグリスの姿がはっきり映る。
スプレーした瞬間から、ここまでアンバーグリスを感じるフレグランスは、このアフターヌーンスイムだけかもしれない。そしてスプレーした瞬間、まるで燦々とした太陽の下で、海に飛び込んだときの波飛沫を思わせるような、一瞬で西海岸の海辺に誘うようなパワーがある。
ミドルではアンバーグリスのマリンの近い側面に、ジンジャーがフレッシュな硬さを、オレンジの明るい甘さを合わることで、ビタミンという表現がしっくりくるような香りになる。
ベースではムスクとはひと味違う硬さのある動物的な温もりが、太陽の熱で火照った肌のように感じられる。
ヴィトンの香りは、服のように香りを着飾るのではなく、ファッションを引き立てるような、大きく香りが変化せずに肌に寄り添った香りが多いと感じている(初期7作品は除く)。
なかでもこのアフターヌーンスイムは創り込んだ感がなく、アンバーグリスに少し輪郭を加えたような香りで、素材そのものがのびのびしている。気負うことなく、夏を楽しみたい時、無意識のうちにこのブルーのボトルに手が伸びる。
2.ルイ・ヴィトン:イマジナシオン(2021年)
ヴィトンが続く。好きだから仕方がない。
イマジナシオンは、魅力的なアンバーティーの香り。
スプレーするとやはり磯のような香りと、シトラスの酸味や明るさが加わることで、みずみずしくも透明感を感じるアンバーグリス。
ミドルではその水のようなアンバーに、上品なティーの甘さが広がっていく。シナモンがティーの深みや甘さを鮮やかにしている。
そしてベースではアンバーグリスの柔らかさが、スモーキーなティーを肌に吸い込ませていくように同化していく。
イマジナシオンは、波が弾けるようなダイナミックさ、滴るようなみずみずしさ、肌に寄り添うような安心感と、より多彩なアンバーグリスの表情を楽しめるような香りだと思う。
ところが、公式HPを確認するとイマジナシオンではアンバーグリスではなくアンブロックスとある。
つまりアンバーグリスそのものを楽しむというより、ボトル液色のような少し冷たさを感じる、静寂なブルーを表現した香り。性別、季節などを問わず、いつでも水のようなアンバーを楽しめる、いわばアフターヌーンスイムの発展形のようにも思えてくる。
ちなみにヴィトンではステラ―ズタイム(2021年)という次世代のアンバーの香りや、アンバーグリスとローズとウードをトライアングルのように組み合わせたレ サーブル ローズ(2019年)がある。間違いなく、ジャック・キャヴァリエはNo.1アンバー使いではないだろうか。
他にアンバーグリスが感じられる香りとして、オンソン ミティック ドリオン(2012年)がある。残念ながら廃番になってしまったが、ティエリー・ワッサーが厳選したニュージーランド産のアンバーグリスとフランキンセンスが調和した、異国情緒溢れるローズの香りになっている。産地まで特定しているアンバーグリスは他に知らない。今でも買っておけば良かったと後悔している。
スイートアンバー系
3.メゾン フランシス クルジャン:バカラルージュ(2014年)
バカラルージュはスイートアンバー系の大傑作だと思う。
スイートアンバー系の場合、バニラやトンカビーンなどのグルマンな香りで甘さを出していくが、このバカラルージュは、アンバーやウッディそのものを焦がすことで、カラメル色の輝きと、香ばしい甘さを帯びた香りが創り出されている。
その人工的な美しさは琥珀色ではなく、ルージュのように赤い。
それは、バカラグラスの透明なクリスタルに24金の金粉を混ぜ合わせ、540度の高温で少しずつ溶解することによって生み出される、独特な深みのあるスカーレットレッドを再現した香り。
真っ赤なアンバーの甘さが、スパイシーの鋭さやフローラルの酸味と絡み合うことで、硬さを伴ってフワッと広がっていく。
肌に乗せると、金粉が体温で溶解されたような甘さと輝きを放ち、その人工的な美しさに魅せられる。
そして一度でもその輝きを味わうと、新世界のアンバーの魅力に取り憑かれてしまう、中毒性の高い香り。
ジャック・キャヴァリエが表現したナチュラルなアンバーグリスの対極に位置する、人工的なアンバーの光。
4.ザ ディファレント カンパニー:ニュイマグネティック(2014年)
ニュイマグネティックは磁力の強いフルーティアンバーの香り。
この香りと出会った頃から、アンバー、そしてフルーティの香りの虜になった。
まるで洋酒を思わせるフレッシュなフルーティを、アンバーがどんどん熟成させていくようなイメージ。
甘酸っぱいフルーティ部分のみずみずしさや酸味を、ジンジャーを使って強調させることで、フルーティのフレッシュ感を演出し、さらに甘さを引き出している。
そして、フレッシュなフルーティを、ベンゾインやバニラが甘くしていくわけだが、アンバーが辛さやみずみずしさや深みを与えることで、まるで洋酒が肌の上で熟成していくような世界観が堪能できる。
正直、肌に乗せると残香はほぼアンブロクサンの香りそのものだと思う。ところがこのアンブロクサンが洋酒のような磁気を帯びているのだ。
アンブロクサンのウッディともムスクとも違うアンバー感が、とても巧みに使われている香り。
同じディファレントカンパニーのオリエンタルラウンジ(2009年)もユニークなアンバーの香りだと思う。こちらはスパイシーで補強したドライアンバーと、濃厚なオリエンタルの甘さ。この辛さと甘さの衝突がとても面白い。
5.シャネル:ル リオン ドゥ シャネル(2021年)
ゼクスクルジフの最新作ル リオン ドゥ シャネルは、金色の輝くライオンをオリエンタルアンバーで表現した香り。
パッと見はシャリマー(1925年)を思わせるクラシカルなオリエンタル。でも、肌に乗せてみると、アンバーがオリエンタルをよりクラシカルに演出しているのに、アンバーそのものはクラシカルではなく、とても現代的な香り立ちに映る。
この現代的なアンバーの香りとはどんか香りなのか考えてみると、それはバルサミック(特にバニラ)に溺れていかないアンバーの力強さだと思う。骨格のアンバーがしっかりしているからこそ、バニラの甘さが黄金色に輝く。つまりバニラやサンダルウッドが勝ればオリエンタルに、パチョリが勝ればグルマンな甘さのように感じるのかもしれない。例えば、ドゥーブルヴァニーユ(2007年)もアロマティックなバニラの甘さのまま終わることなく、最後のアンバーが力強く、とても現代的だ。
ル リオンは、クラシカルとモダンが融合することで、洗練されたオリエンタルアンバーに仕上げられた香り。
ドライアンバー系
6.フレデリック マル:ムスクラバジュール(2000年)
ムスクラバジュール(破滅のムスク)は、ムスクというよりも焦げたアンバーを効かせた、オリエンタルアンバーの香りだと思う。
トップからベースまでとにかく乱暴で、香りの変化幅も大きい。トップのメンズ的なハーバルシトラスから、強烈な甘辛いスパイシーを経て、ブラウン色の焦げたオリエンタルアンバーの甘く力強い香りに変化していく。
ウッディ寄りのカシュメランやドライアンバーに、これでもかと辛さや辛さを織り交ぜ、最後は強引にムスクの香りにまとめるという離れ業を行っている。
実際、このアンバーがとても辛い、そして迫力がある。このピリッとした分厚さにバニラの甘さを重ねることで、まるで体臭が迫ってくるような不思議なムスクの香りに仕上がっている。ワイルドで柔らかい、野性的で優しいといった、人肌に包まれたような安心感に浸れる香り。その結果、ムスクラバジュールというネーミング、なるほどなあと感じてしまう。
ちなみに同じモーリス・ルーセルが調香したダン テ ブラ(2008年)は、ムスクラバジュールの対極に位置するムスクだと思う。
7.ラルチザン パフューム:アンバーエクストリーム(2001年)
番外編
メゾン フランシス クルジャン:ジェントル フルイティティ シルバー(2019年)
近年のフランシス・クルジャンのメンズ作品をみていると、共通して少しメタリックで硬質なウッディアンバーの香りに遭遇する。特にジェントル フルイティティやロム ア ラ ローズ(2020年)から顕著に感じ取れる。そして、フランシス・クルジャンはその香りをアンバリーウッドアコードと呼んでいる。
公式HPには、各香料会社が開発した独自の合成アンバー素材(Ambroxan、Ambrocenide、Cetalox、Cashmeran)があり、このアンバリーウッドアコードとは、これらの合成ノートをパチョリ、サンダルウッド、スギ、ベチバーなどの天然成分と組み合わせた香りと書かれている(この公式HPはとても勉強になる)。
なるほど、確かにスギやベチバーのようなアロマティックウッディな硬さのあるアンバーの香りで、メンズフレグランスには打ってつけかもしれない。まあ好き嫌いは別にして。
アンバーの香りは(アンバーグリスでない)、琥珀というイメージを香りとして表現したため何でもありで、だからこそ次々に新しいアンバーの香りが誕生してくる。
果たしてこれから、どんなアンバーの香りが生まれてくるのだろうか。
フレグランスを巡る旅の楽しみは尽きない。