ルイヴィトン「レ ゼクストレ コレクション」が2021年10月7日に発売されるため、担当されているスペシャリストの先行プレゼンテーションに参加してきた。
この新しいコレクションは、建築家フランク・ゲーリーとのコラボレーション作品であり、今までの作品群を通常タイプだとすれば、こちらはヴィトンのエクスクルーシブ ラインの位置付けとなる。価格は何と1本税抜70,000円。通常ラインが35,000円なので、ちょうど倍額。
フランク・ゲーリーは、世間の常識に挑戦してきた建築家で、2014年に「フォンダシオン ルイ・ヴィトン」を完成させ、2015年には日本で「フランク・ゲーリー/ Frank Gehry パリ - フォンダシオン ルイ・ヴィトン 建築展」が開催されている。
画像出典:公式HPより
今回、ジャック・キャヴァリエとフランク・ゲーリーが決めた、新しいコレクションのコンセプトは「ストレッチ&ツイスト」。これまでのフレグランスの香りやボトルの概念を引き伸ばし、ひねりを加えたとのこと。
まず香りについて。今回のコレクションは通常ラインの賦香率15%から30%にしている。30%といえばパルファン エクストレの濃さで、本来であれば点で付けるような、とにかく濃厚で強い香りとなる。
ところがジャック・キャヴァリエは、エクストレの濃度をスプレーでまとえるような軽さと、エクストレならではの多彩で複雑な表現を目指した。
そしてボトル。まずはキャップ。このキャップは花のイメージで、風に揺れ動く、花の形の変化を表現している。さらにアクセサリーでの技術を駆使し、手作業で研磨することで、ミラーのような輝きを放つ人工の花。
次にボトル。ボトルも風で波打つように、左右非対称となっていて、見る角度によって形状が異なっている。ボトル部分のみを通常品の並べてみると、ゼスクトレの洗練された形状は素晴らしく、今まで何も感じなかった通常品はあか抜けないデザインに感じてしまうほど。
レ ゼクストレ コレクションは、曲線が調和する美しい彫刻のようなボトルと、5つのエクストレ・ドゥ・パルファンで構成されている。
SYMPHONY(シンフォニー)
シトラス・スパイシーの香り。
これは新しいシトラスの扉を開いたような香りで、メインとなるシトラスはベルガモットとグレープフルーツで、そこにジンジャーを加えている。
通常、シトラスといえば果皮の爽やかな香りが多いなか、このシンフォニーは極限まで果皮感が抑えられ、ジューシーな果実感がメインとなっている。そこに、リマンシテのような硬いジンジャーではなく、フレッシュなジンジャーを与えることで、シトラスの果実の甘さやみずみずしさが引き立たせたような、新しいシトラスの表現。
DANCING BLOSSOM(ダンシング ブロッサム)
フローラル・フルーティの香り。
ヴィトンのフローラルの集大成的な作品。
最初、ウールダプサンスのジャスミンサンバック、でもその奥からエトワールフィラントのオスマンサス、さらにはタービュランスのチュベローズや、ローズデヴァンのローズなど、様々なフローラルが入り乱れ、フローラルが渦巻く。まさにダンシングブロッサムな香り。
やがて、ヴィトンの伝家の宝刀ローズドメイのフルーティな甘さが、フローラルの渦をやわらかく上品に、可憐で繊細なピンク色にまとめていく。ベース部分はスペルオンユーの面影が重なる。
RHAPSODY(ラプソディ)
ホワイトフローラル・シプレの香り。
ヴィトンのフローラルのもう一つの集大成。
スプレーした瞬間、フローラルの嵐に巻き込まれる。官能的なジャスミンとイランイランがとにかくセクシーでエロい。でも奥の方は静かでみずみずしい。ミュゲのようなウォータリーなマテが、ホワイトフローラルの熱気を冷ましているかのように。
そこから、ローズの明るさを感じながら、パチョリなどでなめらかなシプレノートに移ろっていく。
ヴィトンのジャスミンといえば、何といってもタービュランスだ。タービュランスの引き締まったクールなジャスミンに対して、ラプソディのジャスミンはイランイランと重なり、とても華やかだ。ラプソディはタービュランスの後継ではなく、新たなジャスミンの表現だと思う。
COSMIC CLOUD(コズミック クラウド)
フルーティ・ムスクの香り。
名調香師はムスク使いが多い。もちろんジャック・キャヴァリエもムスクの使用には長けていて、今回は新しいムスクアコードを創り出している。
新しいムスクは、軽やかなアンブレッドアブソリュートの白さに、トンカビーンのパウダリーな甘さを加えた、マニマリックなムスクの対極にあるようなアコードだ。
そのムスクアコードの、表層をカシスの凛とした甘さやみずみずしいベルガモットで若々しく装い、ベースはパチョリやオームモスのウッディシプレで深みを持たせた変幻自在のムスク。
ベースに進んでいくほど、静寂だけど、包み込むような厚みが増す。無限に広がる雲のようなムスクの香り。
STELLAR TIMES(ステラ― タイムズ)
アンバー・ウッディの香り。
スプレーした瞬間、こんなアンバー出会ったことがないと陶酔してしまうようなアンバーの輝き。辛さ、甘さ、みずみずしさ、深みなど、アンバーが持つ様々な表情をギュッと凝縮させたような強いキャラクターを持っている。
そして、よくよくかぎこんでみると、形成する要素は、シトラスやスパイス、フローラルやバルサミック、さらにはウッディなど多岐にわたっていることに気づく。
アンバーの魅力を追求したジャック・キャヴァリエのアンバーの集大成は、イマジナシオンとは別の魅力が備わっている。
あくまで初見の感想として、レ ゼクストレ コレクションの香りの磁力は素晴らしい。
最初、ムエットで一巡し、大体のイメージを固めた後、二巡目をかいでみると、さっきと受ける印象が変わっている。そして三巡目はさらに変わっている。
結果、香水好きには、どれか一つを選ぶこと自体がかなりの苦行に感じてくる。元々、何か好きな香りがあったら、買うことを検討しようと思っていたのに、気づくと、もう買うことが前提となり、どの香りを選べがいいか迷っている。これは恐ろしいことだ。
さらに、ボトルの美しさが追い打ちをかけてくる。工業デザインとしてこれほど完璧な造形はなく、見る角度によってシルエットが変わり、眺めていて飽きない。そのうえ、持った時の手触りや、キャップをはめたりはずしたりすることが快感で、一度触れると離せなくなる。購入動機の半分はボトルの美しさだ。
まだじっくりと香りを試せていないのに、今後は通常ラインの新作を2回買うのを我慢して、レ ゼクストレ コレクションを買った方がいいなと思い始めている。
レ ゼクストレ コレクションは10月7日より10店舗限定で発売される。
今までのヴィトンフレグランスとは別次元の世界を堪能することができるため、香水好きであれば、試す価値はあると思う。反面、香水好きであれば、この世界に足を踏み入れるともう戻ってこれないかもしれないため、強くはおすすめできないコレクション。