CREED
AVENTUS(2010年)
調香師:オリビエ・クリード(6代目)、アーウィン・クリード(7代目)
おすすめ度:★★★★★
画像出典:公式HP
私にとって、アバントゥスは始まりの香り。
当時は今ほど香水熱が熱くなかった。ある日、埋もれていたサンプル群のなかにあった、アバントゥスのサンプルを何気なく使った時の衝撃は忘れられない。
すごく良い香り!かっこいい香り!男らしい香り!、、、以上。
あの頃は、アバントゥスの香りの素晴らしさを表現できる術がなかった。
世の中にはもっと素敵な香りがあるのでは?
どうすれば香りを言語化できるのか?
という探求の旅が始まった。
アバントゥスは、1760年に創業したクリードが250周年を記念して発表された特別な香り。皇帝ナポレオンの戦争、平和、ロマンスから触発された、強さ、ビジョン、そして成功を祝った香りで、クリードの長い歴史のなかで早くも、もっとも成功した作品として名高い。
トップはフルーティ・シトラス。
スプレーすると、パイナップルの甘さがみずみずしいベルガモットに溶け込んだような香り。それらをグリーンアップルやカシスがキリッと引き締めていく。さらに奥からはバーチ(白樺)のスモーキーなウッディ感がメンズらしい奥行きを与えている。
ミドルはウッディ・シプレ。
トップのキレを残しながら、パイナップルの甘さは、バーチの木の幹を思わせる乾いた香りと調和していくことで、レザーのようにも感じられる。このパイナップルの甘さを纏ったウッディは、渋さもあり、さらにどこか若々しい。そのウッディの乾いた甘さを、パチョリのやわらかいシプレが気品を与えていくようになじんでいく。
鼻先はキリッとしたグリーンの若々しさを香らせながら、甘さの含ませたウッディの力強さとシプレの組み合わせが、とても男らしい色気を醸し出している。
一方で、ローズの明るさや、ジャスミンの官能的なコクや甘さが、レディースのような華やかな印象を添えている。
ベースはウッディ・ムスキー。
鋭いウッディの甘さを残したまま、オークモスのキレのある香りが、ウッディをより精悍に仕上げていく。柔らかいシプレは、クリードらしいアンバーグリスが、みずみずしい深みを与えていく。
縦軸はウッディやアンバーの深み、オークモスのキレ、そこにバニラの甘さを加えた男らしい色気のある香り。そして横軸は包み込むようなムスクの柔らかさ。この対比を維持させたまま、ドライダウンしていく。
季節に左右されない、確固たるキャラクターを備えた香りで、オールシーズン使うことができる。
私の場合、腕ではなくウエストより下のみで使用するため、しっかり丸一日持続する。
全体的な構成は、レディースのフルーティシプレを骨格に、オークモスを強めに主張させ、さらに力強いバーチとパイナップルの甘さを合わせたことで、男らしく仕上げたような香り。
そして、何よりもアバントゥスの魅力は対比だと思う。
鋭さと柔らかさ、乾きと水っぽさ、力強さとなめらかさ、若々しさと渋み、甘さと苦み、新しさと懐かしさ、暗さと明るさ。このギャップが独特な世界観を醸し出しているのではと感じている。
アバントゥスと出会ってから、かなりの年月が経った。それでも、私の中ではアバントゥスを超えるメンズフレグランスは現れていない。
そもそもメンズで、フルーティメインを効かせた香りが稀であり、そこに力強さや高級感、さらには気品まで備わった唯一無二の存在。もう手放すことができない。
それでも最近、使用頻度がかなり減ってきた。
一つは、嗜好の幅が広がり、また昨今のニッチフレグランスの台頭で、フレグランスの選択肢が一気に増えたため。
もう一つは歳を重ねたことで、アバントゥスの色気は強すぎるなと感じてきたため。おそらくアバントゥスの香りを楽しめるのもあと2~3年かなと思っている。そして、アバントゥスの後継者の香りももう決めている。
もちろん、アバントゥスが特別な香りであることに変わりはない。なぜなら、フレグランスジプシー始まりの香りだから。