フレグランスアッセンブル

フレグランスの香りの詳細を解析するサイト

ゲラン:ナエマ パルファム

GUERLAIN

NAHEMA PARFUM(1979年) ※廃番

調香師:ジャン=ポール・ゲラン

おすすめ度:★★★★★


f:id:captain_dora:20210821070419j:image

 

ゲランのもっとも素晴らしいローズと称された名香にとどまらず、香水史上最高のローズの香り。

 

私にとっての幸運は、ナエマ パルファムの香りに出会ったこと。

そして私にとっての不幸は、ナエマの香りを知ってしまったがゆえに、他のローズの香りに対して不感症になってしまったこと。

 

はたして、史上最高のローズの香りとはどんな香りなのか。

 

トップはフローラル・フルーティ。

スプレーするとローズピーチのとろけるような甘さに、クラシカルなアルデヒドが古めかしく絡むため、ローズやピーチのえぐみが鼻に付く、そんなオープニング。

 

ミドルはフローラル・フルーティ。

ところが5分ほど経ち、アルデヒドが落ち着いてくると、蜜を含んだようにみずみずしい、濃厚なローズが姿を現す。毎回、ここに驚く。

まるで野生の薔薇が目の前で咲き誇ったかのような力強さと、引き寄せられてしまう甘さ。奥からはイランイランの輝くような透明感や、ヒヤシンスの冷たくも感じるみずみずしさ、そして薔薇の枝葉の思わせるメタリックなグリーンが一体となって、ナエマという人工の薔薇を完成させていく。

やがて、その力強い野性味が落ち着いてくると、ライラックのコクや、蜂蜜の甘さが、ジャスミンの酸味が、薔薇の実のようなイメージに落ち着いていく。

様々な香りが入れ替わり、時間とともにその姿を変えていくため、薔薇の香りが呼吸しているようにも思えてくる。

 

ベースはローズ・オリエンタル・ウッディ。

ピーチを思わせるフルーティなローズは、さらに初蜜の甘さを加え、熟成していく。そこにペルーバルサムのスモーキーグリーンな甘さや、サンダルウッドの深みにバニラを加えた、オリエンタルウッディの香りとなり、そのままドライダウンしていく。

 

トップは混沌(カオス)、ミドルは人工的なローズ、ベースはオリエンタルのとても変化の激しい香り。実際に肌に乗せてみると、奥から湧き上がるような濃厚なローズは3時間くらい、そしてフレグランスらしい、ローズオリエンタルな香りは6時間くらい持続する。

 

私にとってナエマ パルファムは、あまりにも主張が強すぎるため、あくまで鑑賞用だ。実用するのであれば、オーデパルファンをお薦めしたい。

 

もちろん、ナエマのようなローズの香りは天然界には存在しない。ひと嗅ぎすれば、ナエマは、ローズのエッセンスのみを取り出し、これでもかと言わんばかりにオーバードーズしていることが感じ取れる。そしてここまで過剰投与しなければ到達できないであろう、他のローズを圧倒するような新しいローズの香りが見事に創り上げられている。

ジャン=ポール・ゲランが4年もの歳月を費やし、500回以上も試作した事実が、この濃厚なローズの香りをひと嗅ぎすれば実感できる。

 

尚、世界香水ガイドにはナエマは「バーチャル ローズ」と題されており、「この世のものとは思えないナエマの輝きは、並ぶものなき神々しいローズ」と書かれている。

 

暴力のようなローズの輝きと底なしの深み。ローズへの畏敬の念か、それとも冒涜か。ナエマは狂気すら感じる、孤高のローズの香り。

いったい何がジャン=ポール・ゲランをここまで駆り立てたのだろうか。