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ゲラン:アルセーヌルパン ダンディ

GUERLAIN

ARSENE LUPIN DANDY(2010年) ※廃番

調香師:ジャン=ポール・ゲラン

後悔度:★★★★★

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画像:FRAGRANTICAより

 

もはやコレクションごと廃盤となってしまったゲランのメンズエクスクルーシブラインのなかでも、このダンディは特に傑作と名高い香りと評価されている。私がクリードのアバントゥスの影響で、各ブランドの高級ラインを集めだした時、すでにダンディは廃盤になっていた。発売が2010年で、2015年頃には店頭から消えていたことを考えると、幻のフレグランスと呼んでも言い過ぎではない思う。

いま、私の目の前には、そのダンディの小分けがある。フレグランスコレクターの友人から、分けてもらったものだ。

そして改めてダンディの香りをかいでみると、

トップはスパイシー・シトラス。

いわゆるゲランらしいアロマティックなベルガモットはシャマードプールオムにも重なる。さらにかなりビターなオレンジと、鋭くもスモーキーなカルダモンの合わせた、男性らしい渋めな印象に仕立てたオープニング。

 

ミドルはスパイシー・ウッディ。

アロマティックなスパイシー部分は、ピンクペッパーが加わることで、明るさと少しメタリックな硬さを増していく。

スモーキー部分はセダーやガイアックのようなウッディの香ばしさが強くなっていくが、オリバナムの酸味を添えることで、どこかシプレ調を含んだ、スパイシー・ウッディ・シプレの香りとしてまとまっていく。

 

ベースはバルサミック・ウッディ。

やがてメタリックなスパイシーウッディ全体を、オリバナムの酸味、そしてミルキーなコクで包み込んでいく。甘さがなく物静か、ウッディの硬質な包容力があり、でもどこかミステリアスな魅力が溢れるバルサミック・ウッディの香り。そう、ルパンのダンディな魅力が見事に表現されている。

スパイシー感が減退してくると、一気に香りが丸くなる。酸味やウッディの香ばしさを立たせながら、ミルキーなオリバナムと、サンダルウッドやパチョリの柔らかい香りになり、そのままドライダウンしていく。

 

このアルセーヌルパンダンディがとても好きで、似た香りを色々と探してみたものの、出会ったことがない。

かなり鋭いスパイシーと渋くスモーキーな、男らしいウッディシプレを、徐々に存在感を増していくオリバナムが、唯一無二の香りを創り上げている。

この独特な世界観の立役者はもちろんはオリバナムで、オリバナムがいなかったら、苦辛いウッディシプレの香りとなり、かなり個性が削り取られていただろう。


オリバナムを効かせたウッディといえば、手持ちではルラボのガイアック10が思い浮かぶ。ガイアック10では、ガイアックウッドがより肌に寄り添うようなスパイスと、ムスクとの橋渡し的な役割で、まさに乳香というイメージにぴったりな使われ方だった。


一方でこのダンディでは、オリバナムが時間が経つにつれて強くなることで、ビターなウッディに酸味とミルキーなコクを加え、男らしい色気を全面に出さずに、情緒のある柔らかな香りへ仕上げられている。ゲランにおけるジャン=ポール・ゲランの最晩年の作品で、その熟練された調香が光っている。

 

紳士を装いながら、チャーミングな華やかさが溢れ出るヴォワイユ

同じく、紳士を装いながら、捉え処のないミステリアスな印象を醸し出すダンディ。

この2つの香りにより、ルパンという架空の人物の匂い、佇まいが伝わってくる。


メンズエクスクルーシブラインそのものがなくなってしまったが、ヴォワイユはエピスヴォレという名前に変わり、香りは残された(香りは結構変わってしまったけれど)。もう、ルパンという名前にこだわらない。ダンディの香りも復活してほしいと切に願う。