CHANEL
COCO EAU DE PARFUM(1984年)
調香師:ジャック・ポルジュ
おすすめ度:★★★★☆
画像出典:公式HP
いわゆるシャネルらしい香りは、この「COCO」まででは思っている。
語弊がないように伝えるのならば、ココ・シャネルらしい香りはココまでで、その後のアリュール、ココマド、チャンス、ガブリエルもとても素敵な香りであることは間違いないが、ココ・シャネルのほんの側面をなぞった程度にすぎない。
ココは、良くも悪くもココ・シャネルの精神をはっきりと投影させた香り。
では、ココ・シャネルらしさとは何か。
ココ・シャネル関連の書籍やウィキペディアを読んでみると、女性の生き方革命を成し遂げただけあり、そのバイタリティと、潔癖さ、嫌悪の精神は凄まじい。
「醜さは許せるけれど、だらしなさは絶対に許せない」
「香水で仕上げをしない女に未来はない」
「秩序にはうんざりする。無秩序こそが、ラグジュアリーなのだ」
「かけがえのない人間であるためには、人と違っていなければならない」
「傲慢さは私の性格の鍵であり、成功の鍵でもある」
(山口路子著「ココ・シャネルの言葉」より)
3代目専属調香師となったジャック ポルジュは、まずメンズのアンテウス(1981年)を手がけた後、ココの創作に取り掛かったと思われる。そして、ココがジャック・ポルジュがシャネルで最初に手掛けたレディースの作品にあたる。
彼は、実際にパリのカンボン通りにあるココ・シャネルのアパルトマンを訪れ、足を踏み入れた時に得たインスピレーション。それはココ・シャネルが無駄をそぎ落としたシンプルなスタイルを提案した一方で、アパルトマンのインテリアやジュエリーコレクションには好んでバロックスタイルを取り入れる、その相反する要素を内包する香りを表現したとされている。
トップはスパイシー・シトラス。
ツンと鼻を刺すような攻撃的なコリアンダーに、フレッシュなマンダリンオレンジが広がりに、そこにまろやかなピーチ、明るいローズ、少しアニマリックなジャスミンが女性らしい華を添えていく。とはいえ、スパイシーが強烈な、とても個性的なオープニング。
ミドルはフローラル・スパイシー。
トップのスパイシーはクローブが香ることで、より辛みと深みが増していく。そのスパイシーの鋭さを橋頭保として、酸味の強いオレンジフラワー、エレガントなローズ、華やかなジャスミン、艶のあるイランイランなどのフローラルミックスがスパイスに追いついていき、そして広がっていくような香り。そんなフローラルの先頭にローズが出てきて、クローブと組み合わさることで、存在感のあるアーシーなローズの香りになっていく。
やがてスパイシーの鋭さが、いつの間にかオポポナックスの酸味や甘さに入れ替わるタイミングで、ミモザのみずみずしいフローラルも感じ取れる。
ベースはバルサミック・アンバー。
ローズやジャスミン、オポポナックスのツンとしたフローラルの残香に、ドライなアンバーやシベットのアニマリックな深みが加わる。
そんなフローラルの酸味や深みを残しながら、ラブダナムの樹脂的な甘さや、トンカビーンやバニラの白っぽい甘さや、さらにはクリーミーなサンダルウッドを加え、オリエンタルに向かいながらドライダウンしていく。
女性らしいフローラルオリエンタルの骨格に、鋭いスパイシーやドライアンバーで着飾ったような、色彩のはっきりした香り。夏や春だと暑苦しく、冬や秋の夜にこそ、その彩り鮮やかな香りが映えるのではと感じる。
スパイシーなフローラルが約2時間、そこからアンバーを効かせたフロリエンタルな香りは6時間以上持続する。
今、改めてかいでみると、とにかく忙しい香り。スパイシー、フローラル、アニマリック、アンバー、オリエンタル、ウッディと香りの変化が目まぐるしく、もはやトップ・ミドル・ベースに収まっていない。様々な香りが渦巻くように現れ、化学反応し、全体的にはフローラル・オリエンタル・スパイシーの香りとして見事にまとまめられている。
女性らしい華やかさと、攻撃的な香りが内包したシャネルらしい香り。
他を圧倒するようなキャラクターと強度。好き嫌いがはっきり分かれると思う。
「シャネルにとって香水は「究極のアクセサリー」だからこそ、強い主張がなければならない」(前述)
正直、ここまで強い主張の香りを使うのは簡単ではないと思う。もし、この強さを美しさとして表現できたとき、ココという名のフレグランスは、まさに究極のアクセサリーになるのではと感じる。