FREDERIC MALLE
PORTRATE OF A LADY(2010年)
調香師:ドミニク・ロピオン
おすすめ度:★★★★☆
画像:公式HP
フレデリック・マルの代表作ポートレイト オブ ア レディーは、ブランド創設10周年の節目の作品として発表された。
テーマは「エレガンスの擬人化」。その女性から発せられる声や視線、所作や振る舞い、さらには内側から放たれる魅力。それらのいわば形のないエレガンスという概念を、香りとして可視化することで、この香りを纏った女性がそのままエレガンスな人として完成することを意図された香り。まさしくそれは貴婦人の肖像画のよう。
マルが考えるエレガンスとは時代を超越する存在であり、そのエレガンスを香りとして完成させるために、100mlあたりに400本のトルコローズが使用されているという。
トップはスパイシー・ローズ。
スプレーすると、クローブの湿り気のある辛みと、凛とした鋭いローズが鼻を刺してくる。でもクローブの辛さや、ローズを取り囲むカシスによって、むしろローズの冷たさが引き立つようなオープニング。
ミドルはローズ・ウッディ。
鼻先には凛とした冷たいローズを香らせながら、香りの中心はローズの華やかな部分に移っていく。シナモンにエスコートとされた華やかな表情と、ラズベリーの甘さと調和した可憐な表情が交錯するようなローズの香り。
そこに少しずつパチョリの暗さを加えることでローズの紅色に深みが増し、さらにインセンスのスモーキーな部分がローズに棘のような影を与えているように感じられる。
ベースはウッディ・アンバー。
やがて鼻先のスパイシー感が収まっていくことで、明るく華やかなローズが前に出てくる。そのローズをパチョリ、インセンスが支えていていくため、ローズ自身も暗く沈んでいくと思いきや、オリバナムの酸味やベンゾインの甘さ、さらにはサンダルウッドやアンブロクサンがローズの美しさを保っていく。
そこからローズとパチョリが調和したアーシーなローズが、どこか石鹸を思わせる香りに包まれながらドライダウンまで持続していく。
最初の30分はかなりスパイシーを効かせた、勝ち気で美しいローズの香り。そこからさまざまなローズの表情を魅せながら、ゆうに8時間以上持続する。
温かみのあるスパイシーやウッディアンバーが強く主張するローズは、秋冬にとても似合うと香りだと思う。
ポート オブ ア レディーは、先にドミニク・ロピオンと創ったゼラニウム プール ムッシュー(2009年)のベースを下敷きに、何百回にも及ぶ試行錯誤を経て完成されたとのこと。
ゼラニウム プール ムッシューの暗いにもかかわらず、その暗さに沈んでいかずに、どこか清潔な厚みを感じるベース。ここに大量のローズを投入することで、ローズという素材の様々な表情を楽しむと同時に、これだけ分厚いローズがまるで貴婦人を思わせる気品ある香りとして完成されている。
オープニングのツンとしたスパイシーローズは、勝気でプライドが高い。そこから彼女の官能的な美しさや華麗な立ち振る舞いを見せつつ、どこか無邪気な一面も感じ取れる。ローズが持つパワーがダイレクトに伝わってくる。
ところがそのローズにぴたりと寄り添わせている重厚なパチョリやインセンスが、ローズに荘厳な輪郭を与えローズを支えるベースは落ち着きがあり、さらに清潔な深みがある。
ポート オブ ア レディーはフレデリック・マルのどのフレグランスよりも大量のローズ、そしてパチュリが使用されているとのこと。でも実際に比較してみると明らかにユヌローズの方がローズ感が強い。
つまりポート オブ ア レディーはエレガンスという概念を香りにすることが目的であり、その目的を達成する手段として大量のローズを使用したと考えると、なんともまあマルらしい作品であり、そして贅沢な香りではないだろうか。