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ピュアディスタンス:M V2Q

PUREDISTANCE

M V2Q(2022年)

調香師:アントワーヌ・リー

おすすめ度:★★★★☆

 

ピュアディスタンスの最新作「M V2Q」。

元々「M」というショーン・コネリーからインスパイアされた作品があったが、IFRA規制のため、一部のオイルが使用できなくなった。そこでMをイミテーションするのではなく、オリジナリティにこだわり、新たに誕生したのがこのM V2Qとのこと。

M V2Qとは、MのVersion 2であり、ジェームズ・ボンドに新しい技術や発明品を提供する「Q」を加えることで、ダニエル・クレイグなどの後任ジェームズ・ボンドが醸し出す現代的な感覚を表現したかったとのこと。

こういう経緯までしっかり伝えるブランドの姿勢に誠実さを感じる(明らかに香りが変わっているのに、変わっていないというブランドも多い)。

 

では、新たなMの香りとはどんな香りなのか。

 

トップはスパイシー。

スプレーすると、清々しいレモンやベルガモットから、一気にピンクペッパーが鋭くまくってくる。すぐにラベンダーのアロマティックな硬さがみずみずしいモヤをかけると同時に、華やかなオレンジフラワーの甘さやラブダナムの先端部分が、淡い琥珀色に染めていくようなオープニング。


ミドルはフローラル・ウッディ。

鼻先は、メンズらしいアロマティック感にシナモンの甘い刺激が絡まる。それらを吸収するようにオレンジフラワーのみずみずしくもエキゾチックなフローラル感が広がっていく。そして少し後ろから、おそらくシプリオールやパインタールを思わせる、湿ったタバコにも似た重いウッディが立ち籠る。さらに奥からはスモーキーなレザーとバルサミックな甘さも漂い始める。かなり分厚いフローラルウッディの香り。

そのエキゾチックなフローラルは、ジャスミンサンバックの透明感を増しながら、湿り気の強いウッディの香ばしさを含ませることで、華やかな色気にビターな深みを散りばめたような、エレガントでありつつも、男臭さを漂わせた香りとしてまとまっていく。このミドルはたっぷり3時間以上持続する。

 

ベースはウッディ・バルサミック。

フローラルが少しずつ減退してくると、湿ったウッディと調和しながらも、なめらかなトンカビーンの白い甘さを含んでいくことで、シャープな印象に変化したフローラルと、スモーキーなレザーの香り。ラブダナムのアニマルリック感がワイルドなアクセントになっている。

やがて、セダーウッドの渋く乾いた男味を増しつつ、ほんのりバニラやパチョリやアンバーが混在した、男らしいレザーオリエンタルの表情でドライダウンしていく。全体では、たっぷり8時間は持続する。

 

スモーキーなウッディレザーの前後を、華やかなフローラルや、ふくよかな白い甘さで固めた香り。冬であれば1日中、春や秋であれば夕方以降に似合う香りではと感じる。

 

ピュアディスタンスは、パルファムエクストレ濃度の香水だけを提供する、 世界でも稀な香水会社のひとつであり、このM V2Qも賦香率28%を誇る。

実際に肌に乗せてみると、ムエットで感じた香りの分厚さがより立体的に展開する。上半身に使用すると、男らしいウッディやレザーが全面に押し出されるのに対し、下半身ではウッディを帯びた華やかなフローラルが広がる。

 

そして、良い意味でピュアディスタンスらしい、トレンドの破片も見出だせない、クラシカルな佇まいと天然香料が複雑に絡み合った香りで、独特の世界観が醸成されている。

 

ケミカル原料の発展に伴い、近年のフレグランスは良くも悪くもシンプルな香り方が多い。

ピュアディスタンスのマスターパフューマーのアントワーヌ・リーは、M V2Qを唯一無二の忘れられない香りにするため、香料を厳選することで、まるで時間の流れを遡っていくかのように、ジェームズ・ボンドが持つ、煌めく魅力と英国紳士らしい力強さを表現した。

天然香料の魅力を散りばめ、天然香料が持つ行間を想像させ、エクストレならではの深みによって仕上げる。なんともまあ贅沢なフレグランスではと感じる。

 

うろ覚えではあるけれど、オリジナルのMはもっとクラシカルな趣きの強かったのではないかと。まさにショーン・コネリーのイメージと重なる香り。

 

そして個人的には、このM V2Qは5代目ボンドを演じたピアース・ブロスナンのイメージにもっとも近いのではと思っている。

 

「資料提供:ピュアディスタンスジャパン」