GUERLAIN
CHYPRE FATAL(2008年)
調香師:クリスティーヌ・ナジェル、シルヴェーヌ・ドゥラクルト
おすすめ度:★★★★☆
画像出典:公式HP
エリクシールシャルネルは、現代女性をイメージして創作されたエクスクルーシ ブコレクションで、シプレーファタルは、このコレクションが登場した最初の3作品のうちの1作にあたる。
シプレーファタルのコンセプトは、「大胆でシックな、心を揺さぶる香り。シックでセクシーな、自分のスタイルを貫く芯の強さと優雅さを兼ね備えた女性を思わせる香り。誰もを虜にしてしまう、抗えない魅力をもった“運命の女”をイメージした」とある。
抗えない魅力をもった運命の女とは、はたしてどんな香りなのだろうか。
トップはフルーティ。
スプレーすると、ダヴァナに似たようなみずみずしいアロマティックスパイシーな香りがパッと鼻を刺激し、その奥から蜜が滴るような甘い白桃が香ってくる。この白桃がとてもフレッシュでジューシーで若々しい。
ミドルはフルーティ・フローラル。
トップの白桃の甘さにフローラルの深みが加わり、奥行きが出てくる。
やがてこのフロールが姿がはっきりしてくる。白桃のみずみずしい甘さの下から、ホワイトペッパーを纏ったようなフレッシュなローズで、このローズが桃に酸味や真っ赤な装飾をしていくようなイメージ。
さらにローズが濃厚になっていくのに合わせて、桃も真っ赤に染められると思いきや、その手前で少しずつ存在感を増してきたベースのシプレが、なめらかな白い桃に戻していく。
ベースはフローラル・シプレ。
白桃の添い役を断ったローズが、ジャスミンのような官能的なコクを増していく。ただ、ローズは官能的な香りを拡散させるよりも、肌に馴染んでいく印象が強い。
このフローラルフルーティな香りを、やわらかいシプレが包み込んでいく。パチョリがなめらかで、パチョリにバニラが溶け込むことで、上品な白いシプレの香りが完成させている。そして、ローズとシプレの組み合わせが、トップの白桃のイメージと少し重なる。でもトップのずみずしい白桃とはまた違う、桃のような甘さと華やかなローズを合わせた官能的なローズピーチシプレの香りに。そのままシプレが先に抜けていく形でドライダウンしていく。
持続時間は4時間くらい。ベースのパチョリが柔らかく淡いため、しっかり香りが残る構成ではないように感じる。
ピーチの香りがフレッシュのため、真夏以外は通年使える香りだと思う。
香り全体を見てみると、このシプレーファタルは、大ヒット作のシャネル ココマドモアゼルの流れを汲むフルーティライトシプレを、フルーティのみずみずしさや、フローラルの華やかさを引き立たせて、上品に焼き直したような印象が強い。悪くいうとキャラが弱い、良くいうと汎用性が高く、使いやすい香りだと感じる。
ではなぜ、ゲランはこの香りを「運命のシプレ」と名付けたのか。
出逢いざまのみずみずしいピーチ。とてもおいしそうで、引き込まれてしまう。
距離を縮めると、みずみずしさに隠れていた、女性らしい華やかさや優雅さ、そして思わせぶりな態度に心が奪われる。
そしてさらに近づくととても官能的だ。このままどっぷり溺れてしまおうか!
と思いきや、彼女は自分のスタイルを貫き、サッと距離を取っていく。まるで余熱のようなピーチやローズの香りを残して。
こういう香りは、男にとって「誰もを虜にしてしまう、抗えない魅力をもった"運命の女"」に映ってしまうかもしれない。
そう、運命のシプレというのは私たち男性側の視点だ。