フレグランスアッセンブル

フレグランスの香りの変化を解析するサイト

エルメス:ローズ イケバナ

HERMES

HERMESSENCE ROSE IKEBANA(2004年)

調香師:ジャン=クロード・エレナ

おすすめ度:★★☆☆☆

f:id:captain_dora:20210811180226j:plain

画像出典:公式HP

 

ジャン=クロード・エレナは「数千に及ぶ香料リストの中から、たった200種類足らずの香りを選んで調香に取り組んでいる」と書いている(ジャン=クロード・エレナ著「調香師日記」より)。

素人からすれば、多くの香料原料を使用した方が、明らかに創香の幅が広がるのではと考えてしまうのだが、いずれにせよこの創作スタイルこそがジャン=クロード・エレナらしいと思う。

ここまで自分自身に制約をかけるジャン=クロード・エレナが作り出す香りは、それぞれの香りが主張せずに溶け合い、まるで水彩画のような淡い香りが多い。

 

そしてこのローズイケバナもまさに水彩画のような香りに仕上がっている。

ップはシトラス・グリーン。

とてもすっきりしたレモンやオレンジにカシスを添えた、爽やかでみずみずしいシトラスグリーンの香り。

 

ミドルはグリーン・フローラル。

シトラスよりもグリーンが前に出てくると同時に、ナイルの庭を思わせるルバーブの、野菜的なフルーティの甘さと、少しパウダリーなソープ調。さらにフレッシュグリーンなティも加わり、柔らかい甘さと清潔さを合わせたとても嗜好の良い香り。

その奥からようやく、少しスパイシーを帯びたローズが姿を見せてくるものの、ティノートの存在感に負けてしまっている。ローズを名乗る以上、このスパイシーなローズが3倍くらい香っても良かったと思う。

 

ベースは、ウッディ・ムスキー。

ローズの香りは儚く消え、ルバーブの淡いフルーティな香りを、オリスのようなパウダリー感や、セダーウッド、ムスクが支えながらドライダウンしていく。

 

ルバーブやティのグリーンフルーティをメインに置き、シトラスの爽快感やキリッとしたローズで味付けしたような香りで、特に春から夏に似合う香りだと感じる。

トップからミドルのウエイトが高く、肌に乗せると3時間くらい持続する。元々が淡い香りのため、気がつくと消えている。

 

このローズ・イケバナは、エルメスのエクスクルーシブラインのエルメッセンスの一つ。エルメッセンスは、貴重な素材を使用したエルメスの本質とフレグランスの魂を表現したコレクションだ。
ローズイケバナは、日本の生け花からインスピレーションされた香りで、あえて「生け花」いう言葉を使っている。以前の公式サイトの説明には「余分なものをすべてそぎ落とした美しい真髄。日本の伝統芸術である生け花は、花や枝など選りすぐった素材を使って美を表現」した生け花を「フレグランスという形で表現した」とあった。


確かに、生け花の芸術性と、ジャン=クロード・エレナの創作スタイルは似ていると感じてしまう。
尚、浮世絵コレクターでもある彼は、イリス・ウキヨエという香りも作り出している。


「早朝に香るバラ。朝露をふくんだような、繊細で軽やかな香り」

 香りだけみると、柔らかくフルーティな甘さのある、爽やかで嗜好の良いティローズが、それぞれ主張せずに淡く香るため、清潔感や透明感があり、とても良い香りだと思う。

 

でも、この香りは高級ラインとしては、キャラクターや深みに欠けているように見えてしまう。
高級ラインである以上、例えば、嗜好性など二の次で、希少な素材の姿形がはっきりわかる、世界観に裏づけされた強烈な個性がある、他とは被らない独創的な香りなど、万人向けとは一線を画す特別感を期待してしまう。だからこそ香水好きは、高級ラインを選ぶわけで、正直、好きな人はものすごい好き、嫌いな人は嫌いで一向に構わない、そういう孤高の香りを求めてしまうのではないだろうか。