LE LABO
BENJOIN 19(2013年)
調香師:フランク・フォルクル
おすすめ度:★★★★☆
画像出典:公式HP
モスクワのシティエクスクルーシブ、ベンゾイン19。
この香りのテーマは、全てが変わる瞬間、人生が転落する瞬間、何もかもが今までと同じではなくなる瞬間を表現したとのことで、ルラボらしいとても難解な香りだと感じている。
トップはレジン(樹脂)。
スプレーすると、オリバナムの松の木に似た、爽やかな樹脂の酸味がダイレクトに香ってくる。背筋が伸びるような、緊張感のある酸味で、どこか神秘的な空気を感じる。そして、この飾り気のない樹脂の酸味や凛とした硬さが、何となくモスクワという都市を連想させる。奥からは、同じくオリバナムのコクのある淡い甘さが仄かに漂ってくる。かなり特徴的なオープニングだと思う。
ミドルはバルサミック・ウッディ。
樹脂の鋭い酸味を香らせながら、徐々にオリバナムのミルキーなコクのある甘い部分が濃くなっていく。奥からはセダーウッドの乾いたウッディ感も感じられる。
ムエットだと、このオリバナムとセダーの組み合わせが、ガイアック10とリンクする。ガイアックの方が柔らかな温もりがあり、ベンゾイン19の方がピリッとした緊張感がある。でもどちらにも共通して、安心して身を委ねていけるような深みがあり、かいでいてとても心地が良い。
ところが肌に乗せると印象が一変する。ガイアック10のセダーは静寂だったのに対して、ベンゾイン19のセダーはワイルドで動物的だ。その上をミルキーなオリバナムの甘さが舞っているようなイメージ。
ベースはバルサミック・アンバー。
トップミドルの印象を残しながら、ベンゾインの少し酸味を伴った甘さが増していく。セダーの乾いた苦みがベンゾインの甘さを焦がしたように演出していく。
この酸味のある焦げた甘さが、ゲランのボワダルメニと重なる。ボワダルメニのベンゾインの甘さやスモーキーな印象を抑え、オリバナムのコクでもっともっと白くさせたような香り。
そこから、セダーのマニマリック的な深み、さらにはドライアンバーやムスクがどっしりと構えたようなベースがあり、その上を酸味を纏ったベンゾインのバルサミックな甘さがフワッと香っていくような、とても神秘的な香りが延々と続いていく。
香りの大部分がミドル以降で組み立てられたような、ほとんど拡散しない香りのため、丸1日持続する。
オリバナムの酸味や深みと、ベンゾインのなめらかな甘さが見事に溶け合った香りで、秋から冬にかけて似合う香りだと感じながらも、オリバナムがかなり立つため、夏場に使ってもそれほど違和感がなかった。
オリバナムを母とした、ガイアック10と兄弟のような香り。
ガイアック10と同様に、香りを纏うのではなく、肌や心に寄り添うようなスキンフレグランスだと思う。
公式HPにはベンゾイン19の香りについて「情熱的な精神に対する、自分の思うがままに人生を送る決心をした人々に対する普遍的な賛辞なのです」と説明されている。
変化を受け入れ、新しい一歩を踏み込む手前の、心に決意を宿したその瞬間の香りなのかもしれない。
真っ赤な炎よりさらに熱い、青き炎を心に燃やして。