CHANEL
N°19 EAU DE PARFUM(1970年)
調香師:アンリ・ロベール
おすすめ度:★★★★☆
画像出典:公式HP
フレグランス界の女王N°5の引き込まれてしまうような華やかなフローラルと、包み込むような母性が感じられる女性らしい香り。N°19の社会的に自立した女性の凛とした強さを感じる香り。とても対照的だと感じる。
その誕生も対照的で、N°5はココ・シャネルが始めて世に送り出したフレグランスだったのに対し、N°19は彼女が最後に発表したフレグランスで、N°19発表の数週間後の1971年1月10日に彼女は永眠した。
N°19は彼女の誕生日1883年8月19日から名づけられている。
調香師はシャネルの2代目調香師のアンリ・ロベール。アンリ・ローベルはシャネル専属調香師でありながら、N°19、クリスタル、プール ムッシュウの傑作3作品しか残していない。
トップはグリーン・グリーン。
スプレーすると、ガルバナムのキーンとした鋭いグリーンノートと、みずみずしい甘さをあるベルガモット。このグリーンシトラスをネロリが明るく拡散していく。
ミドルはフローラル・パウダリー。
鼻先ではガルバナムやネロリの明るく爽やかな高音が先行し、奥からはみずみずしいミュゲやナルシスの籠った甘さ、さらには女性らしいイランイランやローズのフローラルブーケが、アイリスのウッディを含んだパウダリーに包まれながら香ってくる。
徐々にフローラルブーケの香りが、先行していたグリーンに迫っていき、そして重なることで、みずみずしい甘さを含んだグリーンフローラルが完成していく。凛とした硬さ、水気を含んだ甘さ、そして輝くような華やかさを合わせた、とても美しいフローラルグリーンの香り。
奥ではアイリスのアーシーなパウダリーや、ベチバーの硬質なウッディが香ってくる。
ベースはアーシー・ウッディ。
フローラルグリーンがパウダリーやウッディを含むことで、少しずつ乾いていくと思いきや、一歩間違えると洗濯糊のようにも映ってしまう、オークモスの鋭いアーシーな香りが、イランイランやナルシスに輝きを与えていく。
やがて、フローラルの余韻を残しながら、パウダリーなシプレの柔らかさと、ベチバーやサンダルウッドが合わさることで、レザーのような香りとなり、そのままドライダウンしていく。
爽やかなグリーンフローラルが2時間、アーシーなパウダリーウッディは4~5時間持続する。
キャラクターの立った、あまり季節の問わない香り。でも、温かく湿度の低い春や秋は、特にグリーンフローラルが美しく香ると感じている。
N°19のキー素材はアイリス パリダで、この希少な素材をシャネルは自社で栽培しているとのこと。そしてアイリス パリダと、キリッとしたオークモスを組み合わせこそがN°19の核だと思う。
この核が確立しているからこそ、その上にグリーンやフローラルやウッディを乗せても、ナチュラルやエレガントに染まることなく、どこか冷たく、自立した都会的な雰囲気のある、オリジナリティ溢れる香りが完成されたのではないか。
ココ・シャネルはアンリ・ロベールに求めたものは「N°5と同様に比類ない個性を放つ香りを新たにつくること」で、その結果、N°19は強さ、自立、そして孤独が伝わってくるような香りになった。
「かけがえのない人間であるためには、人と違っていなければならない」
「私はビジネスウーマンにならずに、ビジネスをやってきた」
(山口路子著「ココ・シャネルの言葉」より)
ココ・シャネルの精神が宿ったN°19は、N°5のような女性らしい姿は見えない。
どちらかといえば性別や流行などにとらわれない、気高く孤高な香り。