DIOR
DIORISSIOMO (1956年)
調香師:エドモンド・ルドニッカ
おすすめ度:★★★★☆
画像:公式HPより
「ディオリッシモがあれば充分ではないか?」
そんな言葉がよく脳裏をよぎる。
最高のミュゲ(スズラン)の香りを探す旅を続けていると、これはというミュゲの香りに出会うことが多々ある。でも、いや待てよ、この香りだったらディオリッシモの方が良いのではないか?と手を止めてしまうケースがかなり多い。
ディオリッシモは、クリスチャン・ディオール自身が最後にプロデュースした作品であり、フローラル・フローラルの最高傑作といわれている。
そして、ミュゲの香りというよりも、もはや「ディオリッシモの香り」といって差し障りがないほど、キャラクターが立っている香りだと感じる。
キャラが立つ。つまり好き嫌いが分かれる。硬さ、柔らかさ、甘さ、辛さを合わせたような香りで、女性らしさ、清潔さ、強さ、気品、もっといってしまえば潔癖さを感じる香り。
今から60年以上も前に、エドモンド・ルドニッカが創り出したミュゲの香りは、時代に流されることなく「ディオリッシモの香り」として確立されて、逆にディオリッシモの方が、このフレグランスを使う人を選び続けているようにも思えてくる。
ディオリッシモはフローラルに始まり、フローラルに終わる、フレッシュミュゲの香り。
トップはグリーン・フローラル。
スプレーすると鋭いグリーンと爽やかなベルガモットが、後から香ってくる少し重めのイランイランを、キリッとしたみずみずしいフローラルへと着飾っているようなオープニング。
ミドルはミュゲ。
トップのフローラルの重さが抜けてくると、透明感のある硬さと、少し鼻に付くジャスミン要素の合わせたようなミュゲベースを軸に、コクのある甘さのライラック調、そこにハチミツのような甘さをほんのり合わせたホワイトフローラルブーケが香ってくる。
ミュゲはローズ、ジャスミンと並ぶ3大フローラルの一つでありながら、生花からオイルが採れないため、ミュゲのオイルの香りをかいだことがない。
表参道ヴィトンでかがせてもらったヴィトンのミュゲベースが、ディオリッシモに近かったため、ディオリッシモそのものが、ミュゲオイルの香りを忠実に再現しているのもしれない。
ベースはジャスミン。
硬さやコクのあるホワイトフローラルの余韻に、アニマリックノート強めのジャスミンを淡く香らせたまま、ドライダウンしていく。
全体をミュゲのシングルノートとして捉えるのならば、フレッシュグリーンのミュゲが1時間程度、そこからコクや甘さを加えたエレガントなミュゲは3~4時間持続する。
フランスでは5月1日はミュゲの日とされ、愛する人やお世話になっている人に幸運が訪れてほしいとの願いを込めて、ミュゲの花を贈る習慣がある。まさにディオリッシモの特にトップからミドルの香りは、その季節にとても似合う香りだと思う。
ディオリッシモは、まるで純白のような無垢さを感じると同時に、キリッと気持ちを引き締めるような強さも兼ね備えた、孤高の香り。男性目線でいうならば、鉄のガードを纏っているようで、簡単には声をかけることができない・・・そんな凛としたオーラを感じる。
ディオリッシモは、コモロ諸島産イランイランや、エジプト産ジャスミンなどを駆使することで、オイルの採れないミュゲの香りを見事に創り出している。
もはや、ミュゲの香り=ディオリッシモの香りと記憶してしまっているため、冒頭の「ミュゲの香りはディオリッシモがあれば充分ではないか?」という感想は当然なのかもしれない、と思えるくらい完成された香り。