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ゲラン:シャマード プール オム

GUERLAIN

CHAMARD POUR HOMME(1999年)

調香師:ジャン=ポール・ゲラン

おすすめ度:★★★★☆ 


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画像出典:公式HP

 

シャマード プールオムは、シャマード(1969年)への返事として、恋に落ちた男性の深く熱いエモーションを描いた香りで、愛の瞬間への陶酔と心の降伏をテーマにしている。

 

この、恋に落ちるという言葉は、とても的を得ていると思う。

そう、相手より先に恋をすると、相手の一挙手一投足にひれ伏せなければならない。そうなるともう身動きが取れない。自制心を失うくらい、相手のことが気になる。仕事も映画も本も音楽も、身体を動かしてみても、たぶん好きな香りに包まれていても、考えてしまうのはその恋する相手のことばかり。
この落ち着きを失った心の動きこそ、まさに恋に落ちてしまった状態だと思う。

 

恋に落ちた男性の、胸がどきどきするような歓びと魅力を表現した香りとは、どんな香りなのだろうか。

 

トップはスパイシー・シトラス。

スプレーすると、まず鋭いブラックペッパー、さらにアロマティック感の強いベルガモットが香る。ゲランのフレグランスの多くの作品に登場する、スプレーした瞬間に、ああゲランのベルガモットだとわかるような、情緒のある香り立ち。

このベルガモットと、奥からうっすらと香ってくるバイオレットの金属音との組み合わせが、クラシカルな雰囲気を醸し出している。
そんなゲランらしいクラシカルなオープニングに、ブラックペーパーのフレッシュな苦みが、男らしさを引き立たせたようなイメージ。

 

ミドルはフローラル・グリーン。

男らしいクラシカルな香りから、ヒヤシンスのフローラルの甘さが一気に広がる。このヒヤシンスはとてもみずみずしく、パッと花開くような香り立ちがとても素敵だと思う。
そんなヒヤシンスのみずみずしい甘さを、バイオレットの硬さで締めることで、メンズらしい落ち着きのある香りに仕上げている。さらに、鼻先に香るペッパーやナツメグのスパイスが、少しだけ荒々しさを付与しているような香り。

 

ベースはウッディ・レザリー。

みずみずしさが収まったヒヤシンスの蜜感と、バイオレットやナツメグの苦みを残しながら、アロマティックなベチバーや、セダーウッドの暗さが落ち着きを与えていく。このレザーの湿り気とグリーンの残香が、粘土のようなクラシカルな印象を持たせながら、そのままドライダウンしていく。

 

ミドルの締まったフローラルが2時間弱、ピリッとスパイスを効かせたウッディ・レザリーの香りは5時間くらい。オードトワレとはいえ、はっきりとした香り立ちが、しっかり持続する。

 

クラシカルなフローラルウッディの香りで、あまり季節感は問わないものの、彩りのあるヒヤシンスがはっきりと香るため、もっとも似合うのはやはり春だと思う。

 

ゲランらしい、とても丁寧に作り込まれた香りで、逆に奇をてらっていないため、良くいえば落ち着いた印象を与え、悪くいえば地味な香りにも映ってしまう。

ムエットだと荒々しいスパイシーや硬いウッディが強く、より地味に感じてしまうが、肌に乗せた方がヒヤシンスの甘さが広がり、ウッディやレザーを従えたような華やかさが引き立ってくる。

 

シャマードと同様に、このプールオムもキーとなる香りはヒヤシンスだ。
ヒヤシンスは色によって花言葉が変わるらしい。プールオムの香りのイメージは紫色のヒヤシンスで、紫の花言葉は「初恋のひたむきさ、悲哀」とのこと。
みずみずしく仄かに甘いヒヤシンスに、フレッシュなスパイシーを添えることで、恋に落ちた瞬間の初々しいイメージが創り出されている。

 

でも、香り全体を見るとバイオレットやウッディで要所を締めているため、どこかしら冷静で醒めたような雰囲気も強い。
若い頃のようなアクセル全開で恋に落ちていくのではなく、アクセルを踏みながらさっとブレーキを踏めるような余裕を感じる。
そして気付く。シャマード プールオムは、まるで恋に落ちている姿を演じているような、成熟した男性の香りではないかと。

 

もし、恋に落ちてしまい、その相手と会う時に、このシャマード プールオムを選ぶことができるだろうか。いや、もう少し色気のある香りを選んでしまうと思う。その恋に溺れてしまうかもしれないという下心と共に。