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ル ラボ:ムース ド シェーヌ 30

LE LABO

MOUSSE DE SHENE 30(2017年)

調香師:ダフネ・ブジェ

おすすめ度:★★★★☆

 

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画像出典:公式HP

 

オランダの首都アムステルダムのシティエクスクルーシブ、ムース ド シェーヌ 30。

モスとパチュリが際立つ合成ブースター、クリスタルモスとクリアウッドを組み合わせた、伝統的かつ進歩的なネオシプレーの香りとのこと。

 

ルラボが創り出したネオシプレーの香りとはどんな香りなのか。

トップはスパイシー・モス。

スプレーすると、ピンクペッパーのピリッと明るめの刺激とほんのりとシナモンリーフのクセ、さらにはみずみずしさのあるオークモスの香り。このみずみずしい香りがおそらくクリスタルモスで、エレミ樹脂のような酸味と、ジュニパーベリーのようなアロマティック感が少し感じられる。

 

ミドルはシプレ。

鼻先にみずみずしいスパイシーな酸味を残したまま、オークモスに柔らかいパチョリが重ねることで、早くもシプレの香りに落ち着いていく。ここまで5分あまり。鼻先はツーンとした酸味、オークモスのキレを合わせたような冷たさがあり、奥からようやくオークモスの苔っぽさが出てくることで、シプレらしい香りになっていく。ただ、パチョリも深みを抑えた透明感のある香りで、これがクリアウッドの香りだと思う。

分解すると、高音は樹脂のような酸味やスパイス、中音が落ち着きのあるシプレ、低音は透明で白いイメージのパチョリのウッディ感が漂っている。

 

ベースはウッディ・スパイシー。

ミドルから大きな変化がないまま、奥からパチョリの乾いたウッディ感やドライアンバーで、硬さや辛みを加えながらドライダウンしていく。

 

爽やかでみずみずしい側面を持ったオークモスと、深みを抑えたパチョリのシプレノートの骨格に、スパイスを随所にあしらったような、シングルノートに近い香り立ち。都会的なスタイリッシュなシプレが2時間くらい、少し硬さのあるシプレウッディが5~6時間持続する。

 

通常のシプレの土っぽく湿った雰囲気や、埃っぽいような温かみが極力抑えられた香りのため、季節感がなく、一年を通して使える香りだと思う。

 

ルラボがいう「ネオシプレ」を、なぜアムステルダムの香りにしたのだろうか。

このムース ド シェーヌをかいでみると、全体的なイメージはシプレらしい、どこか懐かしさの漂う香りだと思う。そこに、ツンと鼻を刺すような明るさ、フレッシュさ、みずみずしさ、そしてコンクリートのような硬さなど、従来のシプレとは違うアレンジが施されている。

懐かしさと新しさ、自然と都会的、柔らかさと硬さなど、シプレを形成するキーワードの反対の要素を添えることで、新しいシプレノート「ネオシプレ」を表現したのではと感じる。

 

運河が張り巡らされた、美しいアムステルダムの街並み(訪れたことなし)。

アムステルダムの街並みは、時代とともに拡張してきた都市形成が見えてくる。時代と共に街を変えるのではなく、中心部をそのままの形で残しつつ、中心部を囲むように街を広げていったとのこと。

ネオシプレの香りを見てみると、中心部はシプレの香りをしっかり残し、その周りを新しさで囲んだような香りで、アムステルダムという都市と重なってくる(さすがに強引かな)。

 

純粋なシプレの香りは、過去の香調になってしまった。現在ではシプレは完全に脇役で、フルーティシプレ、フローラルシプレ、ライトシプレなど、シプレ単体で勝負している香りは見当たらない。

そんな時流に一石を遠じるがごとく、ムース ド シェーヌ 30は、新しい純粋なシプレの姿。ルラボらしい精神を感じる、素晴らしい作品だと思う。